サラワクの「BNの心」

今のマレーシアの政治を理解するにはサバとサラワクがわからなければならない。サバには3月に行ったので、今回はサラワクに行ってみた。忘れないうちにメモしておこう。
与党連合(BN)が大敗した今回の選挙で、どうしてサラワクではBNが圧勝したのか。これに対する答えは「developmentalismのせい」らしい。developmentalismは開発主義と訳すのかもしれないけれど、せっかくmentalが入っているので開発志向主義としてもいいかもしれない。
サラワクのdevelopmentalismをよく表しているのが「BNの心」という言い方。サラワクでは、特に都市部以外で、野党の候補にも「BNの心」があるという。野党の候補者が「私は野党から出ているけれど心はBN。当選したらBNに移籍する」と公約して選挙戦を戦うんだとか。その理由は、BNに加わらないと地元選挙区の開発ができないから。ついでに言えば、当選したら選挙区への便宜を図るためにBNに移るというのはサバもまったく同じ。
でも、「だからサバもサラワクもBNが圧勝した、この2州がある限りBNは安泰だ」と思ったら大間違い。「BNでないと開発できない」というのは、UMNOやMCAやMICから成るBNを支持しているという意味ではなく、連邦政府とつながっていないと開発できないという意味だ。だから、仮に半島部で連邦政府がひっくり返って野党連合(PR)による政権が誕生したら、サラワクの人々は「PRの心」があると言い出すということだ。これもサバでも同じこと。
でもBNとPRではちょっとは違うはず。しいて言えばサラワクにとってどちらが好ましいのか。クチンで、「サラワクにとって連邦政府がBNであるのとPRであるのとでどう違うのか」といろいろな人に聞いてみたけれど、どの人も考え込んでしまった。なにも思い当たらないということだろう。開発予算さえきちんとサラワクに来るのであれば、どちらが連邦政府であってもサラワクには本当に関係ないということだ。
となれば、連邦全体で与野党が逆転したら、サラワクがBN支持に留まっている理由はなくなる。今は積極的にBNからPRに乗り換える理由がないのでさしあたりBNに参加しているけれど、タイミングと条件しだいでいつでもPRに乗り換えるということになる。
そう考えると、今のマレーシアの国会の勢力分布は、数の上ではBN140議席対PR82議席だけれど、BNとPRの勢力争いを考える上ではサラワクのBN30議席分は除いて考えなければならない。同じ理由でサバのBN25議席(ラブアンも含む)も除く必要がある。そうすると、今のマレーシアの連邦議会の勢力分布は、
与党(BN)85議席
野党(PR)82議席
サラワクBN 30議席
サバBN 25議席
となる。サバとサラワクは今のところBNにくっついているけれど、半島部でBNとPRがひっくり返ったらいつでもPRに乗り換え可能だ。半島部でBNとPRは3議席差なので、たった2議席入れ替われば勢力がひっくり返ることになる。これが今の状況。


そんななか、野党連合PRの実質的な指導者であるアンワール・イブラヒムが8月26日の補欠選挙に立候補すると発表した。もともとアンワールの地元で、アンワール不在中はアンワールの妻ワン・アジザが議席を守ってきた選挙区なので、おそらく補欠選挙ではアンワールが勝つだろう。ただし、もともとPRが持っていた選挙区なので、アンワールが勝っても与野党の勢力は85対82で変わらない。半島部でBN議員がいる選挙区で欠員が出て補欠選挙があったら要注意。PRが2つ勝ったら与野党が事実上ひっくり返ることになる。


このような状況で、サバのBN構成政党であるSAPPがアブドゥッラー首相への不信任決議を出すと言った件で、SAPPをBNから追放すべきかどうか、BNはとりあえず結論を出さないことにしたようだ。SAPPの国会議員は2人。仮にSAPPがBNから追放されてこの2人が野党にまわったら、
与党(BN)83議席
野党(PR)82議席
サラワクBN 30議席
サバBN 23議席
ということになる。今は2議席でもとても貴重だ。