2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

サバ映画「PTI」

サバ映画「PTI」は、前作「オラン・キタ」で大ヒットを飛ばした黄金コンビのアブバカル・エラとマット・コンゴによる作品で、「オラン・キタ」の姉妹版。こちらも大ヒットして続編まで作られている。以下、「PTI」と続編の「PTI2」の内容と結末まで書くので…

サバ映画「オラン・キタ」

この数年、マレーシアやインドネシアでは民族別・地域別の映画が作られるようになってきている。サバでは2002年からビデオCDの形で売られる地元映画が大流行している。そのきっかけとなったのが2002年制作の「オラン・キタ」。 「オラン・キタ」は、「陸の民…

奇岩、ツバメ、映画――マレーシアの観光新名所イポー

日本の観光ガイドではほとんど「錫鉱山跡と洞窟だけの地方都市」としか紹介されていないけれど、観光地としてもっと積極的に紹介すればいいと思うので、そのアイデアをいくつか。るるぶやまっぷるなどの関係者はぜひ検討を。「マレーシア映画の新潮流を訪ね…

「月について」――ムスリム、月へ行く

「月について」(Tentang Bulan)は、今が旬のマレーシア映画だ。その理由は後で書くとして、まずはストーリー紹介から。結末も含めて全部紹介してしまおう。 空港に降り立つマレー人女性。高価そうな服やハンドバッグを身につけており、いかにも都会で成功…

「象の間で戯れる」――喧嘩のふりして戯れ、戯れるふりして喧嘩する

縁あって「象の間で戯れる」(Playing between Elephants)という映画を観た。アメリカ在住のインドネシア人監督が撮った映画で、2004年12月のスマトラ沖地震・津波の被災地であるアチェでの住宅再建事業に密着したドキュメンタリーだ。 映画のデータや基本…

「相撲ら!」――「戦わない日本人」が出ているマレー映画

女性に見とれて車にぶつかるのはマレーシアの笑いの王道だ。どれだったか忘れたけれど、P.ラムリーの映画だったかでも見かけた記憶がある。ほかにも動物の臓器移植だとか、「相撲ら!」はマレーシア人の笑いのツボをよく押さえている。マレーシアの劇場だっ…

「ゴールと口紅」――女々しく勝つ

都会のマレー人と言えば、マレーシア映画「ゴールと口紅」(Gol & Gincu)は何度観てもおもしろい。爽快で、観ると元気になる。活躍しているのは都会の女の子ばかりで、ときどき顔を出す男の子はどれもぱっとしないのだけれど、男が観ても楽しめる。 まずは…

「ラブン」――都会暮らしに慣れたマレー人

ヤスミン・アフマド監督が「細い目」の前に作ったマレーシア映画「ラブン」。 マレー語で田舎のことを「カンポン」という。マレー人はカンポンが大好きだ。ハリラヤ・プアサ(断食月明け)の連休には「民族大移動」と呼ばれるほどの帰省ラッシュになるし、都…

「鳥屋」――寝ても醒めても中国人

マレーシア映画「鳥屋」(The Bird House)は、画面の切り取り方がおもしろいし、しかもとても色鮮やかなので、古都マラッカの伝統的な家屋の様子を覗き見るためだけでもこの映画を観る価値は大いにある。ただし、ここではいつものように私の関心に沿って物…

「レイン・ドッグ」――現実から積み上げる「もう1つのマレーシア」

ホー・ユーハン監督の「レイン・ドッグ」(太陽雨/Rain Dogs)は、美しい風景と音楽のなかに身が包まれるだけでも観て得した気分になるのだけれど、ここでは映画の内容の紹介をかねて思ったことを少々。 ホー監督は、ヤスミン監督と志を共有する(けれども…

「霧−Sanctuary」――救済としての老人ホーム

マレーシア映画「霧−Sanctuary」は、いろいろな説明が映画の中で明確に語られず、どことなく掴みどころがない。どこか1つに焦点を当てて捉えようとすると全体が崩れてしまう感じがする。全体の印象を大づかみにすれば、マレー人夫婦の老後を描いた「ラブン」…

「後ろを見てはいけない」――イスラム化しても怖いものは怖い

マレーシア映画「後ろを見てはいけない」(Jangan Pandang Belakang)がマレーシア映画の興行成績の歴代1位になったという。ホラー映画はあまり好みの分野ではないけれど、そういうことなら避けて通るわけには行かないだろう。ということでさっそく観てみた…

「最後のマレー人女性」――「マレー人性なら東海岸」の積極的な否定

マレーシア映画「最後のマレー人女性」(Perempuan Melayu Terakhir)は、西洋風の生活様式を身につけたマレー人男性と、イスラム教条主義によってマレー人の慣習さえ否定しようとするマレー人男性とを対比して描くことを通じて、マレー人とは何かという問い…

「マンデー・モーニング・グローリー」――「テロリズム」に至る道

マレーシア映画「マンデー・モーニング・グローリー」(Monday Morning Glory)の舞台は東南アジアの某国。ナイトクラブで199人の死者を出した爆弾事件の実行犯たちを逮捕した警察は、国内外のメディアや人権団体を招き、実行犯たちが拠点とする村で犯行に至…

「グッバイ・ボーイズ」――試験社会マレーシアの歩き方

マレーシア映画「グッバイ・ボーイズ」(Goodbye Boys)を観た。あの「ゴールと口紅」(Gol dan Gincu)の監督の作品。 マレーシアの地方都市イポーの高校で学ぶ17歳の少年8人。ボーイスカウトの訓練の一環で、「キングスカウト」の称号を得るため、5日間か…

「ムクシン」――創作と現実の境界を溶かす試み

「ムクシン」では、オーキッドとジェイソンの恋の行方のほかにも、「細い目」や「グブラ」で未解決だった謎がいくつか解かれている。 たとえば、ムクシン少年はオーキッドに友達のしるしとして「ずっと髪の毛を切らないで」とお願いする。そういえば、「細い…

「ムクシン」――オーキッドとジェイソンの恋の行方

「ムクシン」(Mukhsin)では、「細い目」と「グブラ」に続くヤスミン・アフマド監督のオーキッド・シリーズの続編として、前作までに謎が解かれなかったオーキッドたちの物語にどう決着がつけられたかがまず気になってしまう。最大の謎はオーキッドとジェイ…

「グブラ」――オーキッドと「もう1つの物語」、2つの「逆転」

「細い目」は「現実には存在しないマレーシア」を美しく描いた映画で、その中心にいるのが、現実のマレーシアにあるさまざまな関係を「逆転」させているオーキッドだ。では、「細い目」の続編である「グブラ」でオーキッドの「逆転」はどうなったのか。 「細…

「細い目」「グブラ」――現実にないマレーシアを美しく描く

ヤスミン・アフマド監督による「細い目」(Sepet)は日本でもかなり評判になった。私もこの映画がとても好きだ。 ところで、この映画について「マレーシアの多民族社会のリアリティを描いた」という評価を何度か目にした。そう言いたい気持ちはわからなくも…

ムスリム・ヒーローとしてのチチャマン

観れば明らかだが、「チチャマン」のテーマの1つは「コピーではなくオリジナルを」だ。 そうはいっても、「チチャマン」自体が「スパイダーマン」のコピーじゃないかという人もいるだろう。もちろん、「チチャマン」のアイデアは、「スパイダーマン」や他の…

「チチャマン」――新世紀のムスリム・ヒーロー映画

マレーシアでは2006年、ヒーロー映画「チチャマン」(Cicak-man)が大人気だった。壁をよじ登る特殊な力を持ったヒーローが悪者と戦う物語で、「スパイダーマン」を思い出させるけれど、マレーシアではどの家でも壁や天井にへばりついていたりするチチャ(ヤ…

引っ越し

ヤスミン・アフマド監督が次回作の撮影の下見に日本を訪問しているというニュースを読んだ。主人公の女性の名前はイノムなのでオーキッドのお母さんの物語。そのうちにオーキッドのお父さんの祖先をたどってイギリスに行ったりもするんだろうか。 さて、もと…

映画「感染列島」

帰りの機内で観た。物語としては、主人公が持ち場を離れてあちこち出かけすぎじゃないかと思うけれど、それはそれとして考えるところがあった。 総合病院が正体不明の感染症の感染現場になり、WHOからメディカルオフィサーが派遣されてくる。感染経路を特定…

マレーシアで買った本

引き続きマレーシアの補欠選挙後の動きとTALEnTIMEの評価をウォッチ。 補欠選挙後に新首相の新内閣が発表された。マレー人政党の青年部長が落とされてかわりにマハティールの息子が入閣したほか、サバから多数の入閣があったことが目立った。 TALEnTIMEにつ…

マレーシアの補欠選挙

インドネシアでも総選挙だそうだが、マレーシアの補欠選挙の話。 補欠選挙なので日本ではそれほど大きな扱いになっていないようだけれど、独立から50年間のマラヤ/マレーシア政治の総決算というか、沈みかかった与党連合は持ちこたえられるかに関心があって…

映画「Talentime」その3

選挙翌日の地元新聞の1面トップの見出しは「現状維持」。確かに議席数だけ見れば与野党の数は変わっていないけれど、半島部の2つの選挙区にあれだけ資源を投入した与党が2つとも落としたのを「現状維持」と呼ぶのはどうなんだろうか。 別の新聞には、「与党…

映画「Talentime」その2

今日はマレーシアの3ヵ所で補欠選挙。夜の10時45分にテレビ中継で結果が発表された。半島部の2つで野党連合・人民協約(PR)が勝ち、サラワクでは与党連合・国民戦線(BN)が勝ったらしい。 ナジブ首相就任直後の選挙なのでご祝儀ということで半島部では国民…

タレンタイム(Talentime)

ヤスミン・アフマド監督の最新作。とてもよかった。これまでのヤスミン映画に出てきた場所や道具や人物やエピソードをいったんバラバラにして組み立て直したような映画。(悪い意味でではなく)マレーシア色を薄くして、マレーシアのことをよく知らなくても…

進研ゼミのCM

『Bukak Api』をおみやげに持ってきてくれた映画研究の友人との濃密な時間に一区切りがついた。映画とタイ料理とセクシュアル・マイノリティの話ばかりで過ごした3ヵ月間となった。 お別れといえばお別れだけれど、今後の関係を継続することを確認した上で…