奇岩、ツバメ、映画――マレーシアの観光新名所イポー

日本の観光ガイドではほとんど「錫鉱山跡と洞窟だけの地方都市」としか紹介されていないけれど、観光地としてもっと積極的に紹介すればいいと思うので、そのアイデアをいくつか。るるぶまっぷるなどの関係者はぜひ検討を。「マレーシア映画の新潮流を訪ねるイポー3泊4日の旅」なんていう感じで売り出してはどうか。
 
まずはイポー観光を勧める8つの理由から。

  1. 位置。クアラルンプールから約200km。高速道路が通っているので車で3時間、飛ばせば2時間で行けるので日帰りもできる。ペナンからだと165kmで、こちらも高速道路で2時間程度。西海岸のリゾート地として有名なパンコール島にも近い。
  2. 宿泊。市内にホテルがいくつもあるので宿泊の心配はない。(ホテルから一歩も出ないでリゾート気分を満喫するとはならないけれど、町を楽しむのにいいところ。)
  3. 食べ物。チキン、白コーヒー、ポメロなどイポー名物がたくさんある。日本食以外は食べ慣れていないという人には、ショッピングコンプレックスなどに日本食の店がある。
  4. 風景。奇岩と洞窟の山水画の世界。洞窟にはさまざまな信仰の施設が作られている。ツバメの巣がとれるのを隠すため?
  5. 市街地からほんの少し外に出ただけで東南アジアの田舎町の風景が広がっている。田舎が好きな人に。
  6. 快適な都会の生活に慣れているので東南アジアの田舎町にどっぷりつかるのはちょっと……という人にも、市街地に大きなショッピングコンプレックスや小奇麗な商店街がいくつかあるので安心。
  7. ほどよく心地よい混ざり方をした多民族社会。いろいろな民族がいる社会で、自分と違う人が存在することをよく承知したうえで、自分と異なる人を異なる人として温かく迎える人々。マレーシアの他の地方も多民族社会だけれど、イポーの人々の距離感のとり方はとても心地よい。
  8. そして映画の町。新潮流と呼ばれる最近のマレーシア映画の舞台や撮影現場になっているので、マレーシア映画を楽しんだ人たちのもう一歩先の楽しみとして。

ということで、ここでは最近のマレーシア映画に絡めてイポーの紹介を。一部の紹介では映画と現実を混同させているけれど、私の趣味ということでご容赦を。
旧市街から新市街へ、そして郊外へと順に並べればいいのだろうけれど、説明の都合でその逆の順に。
 
■イポー市郊外
 
グヌン・ラン公園
クアラルンプールとペナンを結ぶ高速道路のイポー出口付近の公園。市街地からはかなり離れているので車がないといけない。
大通りから入ってしばらく行くと公園駐車場に着く。ここには駐車場と船着場しかないが、水面ぎりぎりまで木々の緑で覆われた池やその間にのぞく奇岩を眺めているだけでも楽しい。
対岸に渡る船着場が、「細い目」でジェイソンとオーキッドが最初にデートした場所。ここで「細い目」ごっこをするカップルもいるらしい。
http://princessnorfariza.blog.friendster.com/2005/06/the-one-about-ipoh/
船着場から池の対岸にボートが出ていて渡ることができる。ボートは30分おきに出ていて、運賃は大人1人3リンギ(往復)。直線でいくと5分程度の距離だが、運転する人によっては池の中を大回りしていろいろ解説してくれる。渡った先はレクリエーション公園。木々の緑がどっさりある。
公園駐車場から大通りまでは約700m。夕方になると雨が降ることがあるので注意。大通りまで出ないとバスも来ない。
 
バトゥ・ガジャ
「グッバイ・ボーイズ」に出てきたスズの浚渫船が放置されている、と思ったが打ち棄てられているのではなく展示されているらしい。
ついでに言えば、この浚渫船はマレーシアの漫画家ラットの「カンポン・ボーイ」(邦題「カンポンのガキ大将」)にも出てくる。ラットのお父さんはバトゥ・ガジャで働いていたらしい。
ついでに少し南にいくとタパーという町がある。「グブラ」でジェイソンのお父さんが病室で隣り合わせた男性に何の仕事をしていたか尋ねられ、「JKR Tapah Road」と答えている。JKRは要は道路工事の役所で、ということはジェイソンのお父さんはタパー付近の道路建設に関わっていたということになる。建材の納入業者あたりか? タパーあたりを車で走りながら、この道を作ったのか、それで羽振りがよくて愛人をたくさん囲っていたということなのか、などと思う。
 
ペラ洞
洞窟のなかを進むと頂上まで登れる。頂上からはイポー周辺が見渡せる。市街地と反対側には工場が広がっている。階段は急で滑りやすいので注意。
洞窟の中には有り難そうな仏像がいくつもあり、その奥に小さな通路状の洞窟がある。この先には「お宝」に通じているのかと勘繰り、「この洞窟に鳥は住んでいるの?」と聞いてみるが答えはなかった。
ペラ洞の前の道にはポメロ売りの屋台が並んでいる。南の洞窟のそばにもポメロ売りの屋台が並んでいて、ポメロ屋台としてはそちらの方が有名らしいが、「最後の共産主義者」(The Last Communist)でアディバ・ヌール(「細い目」「グブラ」でお手伝いのヤム役だった人)がポメロを持って立っているのはたぶんこっちの屋台。
 
■新市街
 
グリーンタウン
新市街のはずれ、シュエン・ホテルから歩いて5分ほどの距離にある新興のビジネス街。「細い目」や「グブラ」に出てきた場所がいくつかある。
まずはChicken King。「細い目」でジェイソンとオーキッドが始めてのデートの後で夜遅くまでおしゃべりしていたファーストフードのお店。とても残念なことに、ペラ州に数軒あったChicken Kingは2007年はじめに営業を停止してしまったらしい。「the best french fries」が食べられず残念。
元Chicken Kingの隣の店はMoven Peak。「グブラ」でアリフ(オーキッドの夫)がラティファと密会していたのをオーキッドに見つかった現場。なんとオーキッドはジェイソンとの思い出のChicken Kingのちょうど手前で夫の密会現場に出くわしてしまったということになる。アリフたちがいなければそのまま素通りしてChicken Kingの前を通り、ジェイソンとのデートを思い出したかもしれない。
「グブラ」とは直接関係ないけれど、グリーンタウンにあるOld Town White Coffeeは、旧市街の白コーヒー店のイメージを残したまま小奇麗な内装に仕上げたコーヒーショップ。無料で無線LANが使える。コーヒーやトーストなどの定番メニューのほか、チキン・ルンダン(「グブラ」でジェイソンのお父さんが病院で「こんなもの食えるか」とごねたときに同じ病室に入院していたムスリム男性の奥さんが差し入れてくれたもの)などもある。
 
シュエン・ホテル
新市街にはホテルがいくつもあるが、「グブラ」の撮影スタッフが宿泊したホテルがシュエン・ホテルだったらしい。
シュエン・ホテルのまわりにはリフレクソロジーの店や屋台が多い。道を渡った向かいには大きなショッピングコンプレックスがあるのでショッピングにも便利。
さらに歩くと屋台が集まっている広場がある。「細い目」でジェイソンとオーキッドとキオンがおしゃべりして、オーキッドとキオンの2人の話が盛り上がってジェイソンが焼いたりしているシーンに出てくるような店が並んでいる。
 
グルバン・マラム
夕方になると車両通行止めになって夜市が開かれる。毎日夕方6時から午前2時。ジェイソンたちを探してみたが、最近では取締りが厳しいためか露店でのVCD売りはまったく見なかった。
グルバン・マラムの夜市通りがTheatre通りと交差するあたりにチキンの店が何軒かある。いつも一番にぎわっていたのが老黄芽菜鶏/Restoran Lou Wongで、白切鶏、油芽菜、鶏絲河粉など。Theatre通りにはイポー名物のお土産があり、白コーヒーやポメロなどを売っている。
 
■旧市街
 
ツバメハウス
旧市街には『鳥屋/Bird House』でも出てきたツバメハウスがいくつかある。夕方、店が閉まりかけるぐらいの時間帯に旧市街を歩くとチュルチュルチュルと鳥の鳴き声が聞こえてくる。そのなかで途切れなく聞こえているのはツバメを呼ぶための録音テープ。その音をたどると、窓からツバメが出入りしている建物が見つかる。これがツバメハウスだ。
ただし、よそ者が無邪気に「ツバメツバメ」と騒ぐとビジネスの面でもツバメの呼び込みの面でも邪魔することになりかねないので、騒ぎすぎて日暮れ後の人気のない路地できついお仕置きを受ける目に遭わないよう注意。
 
白コーヒー
旧市街は白コーヒー知られていて、コーヒーショップが何軒か集まっている。(白コーヒーについてはウェブ上でいくつか情報があるのでそちらを。)
コーヒーと言えば、旧市街には「細い目」でジェイソンとキオンがオーキッドと待ち合わせした中華のコーヒーショップとそっくりの店がある。
白コーヒーを出す店なら新市街にいくつも作られているが、それでも旧市街の名物として白コーヒーの古い店が残されている。これはおそらく旧市街の再開発を防ぐためで、その大きな理由が旧市街にあるツバメハウスの維持なのではないかと勘繰ってしまう。
(ツバメの巣に関しては、奇岩といい洞窟といい、イポーの町全体でツバメの巣が隠れた一大ビジネスなのではないかと疑っているのだけれど、それについては別の機会に。)
 
ロイヤル・イポー・クラブ
「細い目」でジェイソンがチューベローズ(月下香)を見に行って「寒いなあ」と震えていた会員制クラブ。ジェイソンがレストランを外から覗いてそのまま入ってきたということは、クラブの裏庭から入って正面の受付を通らずにレストランに入ってきたということか。
1904年に設立された由緒正しいクラブで、言うまでもないが、ここで食事したことがあるとはオーキッドの家族にはそれなりの社会的地位があることを示している。
 
セント・マイケル学院
ロイヤル・イポー・クラブの向かいがセント・マイケル学院。「グッバイ・ボーイズ」の少年たちが通っていた学校で、100km行軍の出発地であり目的地でもある。正門前は子どもたちを迎えに来る両親の車がたくさん並んでいて、親たちも学校の敷地内に立ち入り禁止とのことだった。「グブラ」でティマの子どもが通っていた小学校もこの学院の敷地内にあるらしい。
 
インド人街
旧市街にはインド系の店が集まっているエリアがある。VCD屋さんを何軒かのぞいて、マレーシアで撮られたインド映画があるか尋ねてみたらかなり出てきた。「Sweet Dreams」「November 24」「Manjari」などを手に入れる。
ほかにもタミル語のVCDがいくつもあり、どれにも似たような(しかし決して同じではない)キャッチコピーがついているの興味深い。たとえばこんな感じ。
Manasachi――Malaysia's 1st Action Movie
Kaathal Veendum――First Malaysian Tele Movie Shot in 24 Hrs
Kolai――1st Malaysia Tamil DVD Movie
Uttratchai Kali――1st Malaysian Tamil Devotional Tele Movie
これらの「マレーシアで最初の・・・」モノはいずれもタミル語のみで字幕なし。
(この記事は「malam−マレーシア映画」の2007年9月25日付けの記事からこの場に引っ越したものです。)