マレーシアの華語同志小説

引っ越しに伴う本棚整理の第3弾。しばらく前から、マレーシアで華語で書かれた「同志」関係の本がいくつか出ているなと思い、見つけるたびに買っておいたものがあったのでこの機会にひとまとめに。(華語と日本語の漢字が混じっていることはご容赦を。)


欧陽文風『同志愛神』3nity、2005年8月。
陳再明『神愛「同志愛」?』文橋伝播中心、2005年12月。
欧陽文風『現在是以后了嗎?』3nity、2006年7月。
欧陽文風『同根生』有人出版社、2007年5月。
許通元編『有志一同;馬華同志小説選』有人出版社、2007年9月。


マレーシアの華語で書かれた同性愛小説を「馬華同志小説」と呼ぶ。出版点数が増えてきたきっかけの1つは、マレーシアの華語文芸誌『蕉風』の493号(2005年2月)が「性/別越界 愛人同志」という同性愛特集を出したことだった。
第493期目次 | 蕉風文學誌


『蕉風』493号に掲載されていた許通元の「マレーシア華語文芸に見る同性愛」のアップデート版を巻末に掲載したのが5冊目の『有志一同』。同じく『蕉風』493号の特集にも寄稿している欧陽文風が書いたものが1、3、4冊目。今回読んでみてわかったのだけれど、欧陽文風は2005年1月に『神愛同志』という本を出していたらしい(2005年8月の『同志愛神』とは似ているけれど別もの)。これと『蕉風』493号が契機となって馬華同志小説の歴史が大きく変わってきたとのこと。


もっとも、「同志」という言い方はされていなかったものの(華語で同性愛を「同志」と広く呼ぶようになったのは1989年の香港同志映画祭から)、馬華同志小説の歴史は長く、古くは1960年代にさかのぼるらしい。『有志一同』によれば、最も早い時期の馬華同志小説は1968/69年の『学生週報』に掲載された雅蒙の「花非花」で、第三者の女性の視点から大学予備課程の2人の男子生徒の恋愛を描いたものだった。その後も『蕉風』などの馬華文芸誌に時おり同志小説が掲載されていたらしい。


『蕉風』にはいろいろな作家の同志作品が掲載されているが、タイトルから内容が明らかな単行本を見る限り、この分野では欧陽文風と許通元が目立つ。この2人、検索してみても日本語ではあまり紹介されていない様子だが、唯一ヒットしたのがここでもときどき言及しているその筋の専門家のブログで、目配りの広さと時に適った紹介に改めて敬服。
http://d.hatena.ne.jp/baatmui/20080318
http://d.hatena.ne.jp/baatmui/20060831


シンガポールで英文のゲイ出版物が話題になったことは紹介したとおり。
マレーシアの政局と同性愛 - ジャカルタ深読み日記