マレーシアの補欠選挙

マレーシアで昨日行われた補欠選挙で野党(PAS)の候補が与党(UMNO)の候補を破り、国会の議席は与党137、野党82、無所属3、合計222になった。
でも、前にも書いたように、マレーシアは半島部、サラワク、サバの3つの地域で区切られていて、地域間の有権者や政党や候補者の移動がほとんどないので、3つの地域に分けてみなければ話はわからない。
86対80−−マレーシアの総選挙 - ジャカルタ深読み日記


数の部分を変えて同じ話をもう一度。
この補欠選挙の結果を3つの地域に分けるとこうなる。

半島部  与党84、野党80、無所属 1、合計165
サラワク 与党30、野党 1、無所属 0、合計 31
サバ*   与党23、野党 1、無所属 2、合計 26
(* ラブアン連邦直轄区を含む。)


2008年3月の選挙以来、UMNOを中核とする与党連合・国民戦線と、PKRを軸とする野党連合・人民協約との政権争いが激しく行われているが、この2つの陣営が激しく対立しているのは半島部の話。サラワクとサバではそれぞれ地元の事情の方が重要で、国民戦線と人民協約では実はどちらでもいいと思っているのだけれど、でも政府側にいなければならないので、今は国民戦線側についている。ということで、サラワクとサバの与党議員53人は、風向きが変わればいつでも国民戦線から人民協約に乗り換える。
そんな状況で、今回は半島部で補欠選挙となった。前回の選挙では僅差で与党議員が当選していたが、その与党議員が死亡して空席になったため。結果は、最初に書いたように僅差で野党候補の勝利となり、このため半島部では与野党議席数が2つ縮まり、与党84対野党80となった。
2008年3月の選挙直後には85対80で5議席差だったけれど、野党議員1人が無所属になっていた。この議員、与党議員を何期も務めていたけれど、先の選挙で与党の公認候補になれなかったために野党から出馬した人。当選すると無所属になり、数ヵ月様子を見て、どちらの陣営が政権をとるかはっきりしたらそちらに参加する(という言い方はしていないけれど)と言って今日に至る。ということで、野党側から見れば、政権奪取までの最短距離は与党からあと2議席を奪うことということになる。
(以前書いた記事ではラブアン連邦直轄区を半島部に入れたために半島部の議席数を86対80としたけれど、政党などの区切りで考えるとラブアンはサバに入れるのが妥当なので、そうすると半島部の選挙直後の議席数は85対80となる。)


ところで、今回の補欠選挙では、立候補者は3人いた。前回の選挙で与党候補が僅差で勝ったときにも候補者は3人で、無所属候補が数百の票を集めていた。この票数が与党候補と次点の野党候補の票差よりも多かったため、あの票がとれれば野党候補が勝てたのに、という声が出ていた。
マレーシアの選挙では、特に地方議会の選挙では、数万人の選挙区で得票数が十数票、場合によっては数票というのをよく見る。これは、頑張ったけれど家族と親せきしか投票してくれなかったということではなくて、立候補届け出から投票日までに手打ちが行われたということ。
当選を確実にしたい有力候補(A候補)の陣営が、同じ選挙区から立候補している無所属候補(B候補)に声をかけて、もしBの支持者の票をAにまわしてくれたら、Aが当選したらBの関係者を雇用してあげるとか、Bの地元に公共事業を入れてあげるとか、もっと簡単にやるならBに現金を渡すとか約束して、Bの支持者たちにAに投票させるように話をつける。この話がまとまると、Bは自分に投票しないでAに投票するようにと自分の支持者に呼びかける。
現金を渡して票のやり取りをするのは選挙違反になるけれど、関係者の雇用や公共事業を条件にして票をやり取りすることをどう考えるか。
Bの支持者たちは、自分たちがA候補を直接支持したのでは、A候補の多くの支持者の中に埋もれてしまって自分たちの声が届かないと思っている。だからBのもとで票を取りまとめて、A候補と交渉する。そのための手段の1つがBに立候補させることであって、当選が立候補の唯一の目的ではない。
政党間の移籍が比較的頻繁に行われて、しかも与野党間の勢力が拮抗してくると、この種の交渉が持つ意味が大きくなる。投票以外のところで駆け引きが行われるのは有権者を馬鹿にしている? そう考えるのはマレーシアの有権者を馬鹿にしているから。誰も黙って政治家を支持しているわけではない。別の候補に投票するようにと言われたら、どんな見返りが得られるのかが必ず問われる。きちんと答えられなかったり、後で約束が破られたりすると、次から支持が得られなくなる。政治家にとってはやりにくくて厳しい状況になったかもしれないけれど、それはそれで有権者の選択の結果ということ。
半島部で(これまでも行われていたにしろ)そういうことが表立って語られるようになったとは、半島部もようやくサバやサラワクに追い付けるようになってきたかと感慨深い。
それはともかく、今後のマレーシア政治にとって、サバとサラワク、特にサラワクの重要性がぐんと高まったことは確か。