マレーシア・インドネシア関係

もうすっかり季節もののニュース扱いになっていると考えればいいのか、インドネシアではまたマレーシアへの敵意を煽ろうとする報道がされている。
今回はマレーシア観光局のパンフレットにバリの伝統舞踊が使われていたため、マレーシアはインドネシア文化を奪って自分たちのものであるかのように語っているという批判。それでマレーシアの観光を促進しているのがけしからんということらしいのだけれど、インドネシアでも負けないようにがんばって観光を促進すればいいじゃないかと思ってしまう。マレーシアで働くインドネシア人労働者の権利を守れという話は理解できるが、マレーシア国歌はインドネシア民謡が起源だというしばらく前の批判と同じような「文化の盗っ人」の話まで来るとただの言いがかりだとしか思えず、話を聞いていて気が重くなる。


そんな気分で街を歩いていると、対マレーシア関係の本がたくさん出ているのに気づいた。これまでも何冊か見かけていたが、今年になって出版数が増えている。どれもマレーシアを批判するもの。なかにはマレーシア結成の歴史を振り返って批判の材料を探そうとする努力が見られるものもあるが、イギリスの陰謀だとかユダヤ人が裏にいるとかいうトンデモ本もある。インドネシアの本屋には「ユダヤの陰謀」コーナーがあり、たくさん本が並んでいるのだけれど、そこにマレーシア関係の本が並べられているのを見て、インドネシアの出版業界で対マレーシア関係というのは現実の国家間関係というよりもその手のジャンルの1つになったと考えればいいのかとも思う。
以下、マレーシア・インドネシア関係で見つけた本。


Indonesia VS Malaysia: Membandingkan Peta Kekuatan Indonesia dan Malaysia. (Taufik Adi Susilo, Grasi, 2009.)
マレーシア・インドネシア紛争の原因。1960年代のマレーシア対決政策を除けば、シパダン・リギタン島帰属問題、インドネシア人労働者(TKI)、国境警備隊、文化の借用、アンバラット海域が挙げられており、どれも2002年のシパダン・リギタン問題以降に出てきたもの。また、「マレーシアは安定して発展したよい国だと思われているけれど社会問題もたくさんある」とマレーシアの政治経済社会問題についてもいろいろ挙げている。その多くはマレーシア国内でも指摘されているものだけれど、その表現のしかたが興味深い。こういう形で「相互理解」が進んでいくのか。


Ganyang Malaysia!. (Efantino F. & Arifin SN, Bio Pustaka, 2009.)
これまでのマレーシア・インドネシア関係についてまとめたもの。紛争以外の関係に関する章もあり、芸能や映画では相互の交流が見られることもわずかながら触れられている。


Heboh Ambalat. (Syafaruddin Usman dan Isnawita, Narasi, 2009.)
アンバラット海域でのマレーシアとインドネシアの紛争について、その背景にマレーシアが同海域で産出する石油を手に入れようとする意図があると論じたもの。


Ancaman Negeri Jiran. (Syafuruddin Usman dan Isnawita Din, MedPress, 2009.)
「近隣国の脅威」。前掲書の著者によるインドネシアの対外紛争についての本。中国やアメリカも出てくるが、主題はマレーシアとの関係。内容も前掲書と似たようなもの。


Beyond Borders: Multi Dimensions of the Indonesian Borders. (I Made Andi Arsana, UGM, 2009.)
インドネシアの国境をめぐる紛争をまとめたもの。記述の中心はマレーシアとシンガポールとの国境紛争。ガジャマダ大学から出版されている。内容は英語。


Malaysia Membungkam Indonesia. (M. Wibowo, Pustaka Solomon, 2009.)
2014年までにイギリスとマレーシアが結んでインドネシアを支配しようとしているという警告の書。表紙には「ユダヤシンガポールが関与か?」とも。謎のCD付き。


Politil & Perubahan antara Reformasi Politik di Indonesia dan Politik Baru di Malaysia. (Leo Agustino, Gaha Ilmu, 2009.)
1980年代以降のマレーシアとインドネシアの政治には類似点があるとして両者を比較検討したもの。マレーシアとインドネシアからそれぞれ研究者が参加して分担執筆している。マレーシア批判のためではなく、両国を比較してそれぞれへの理解を深めようとする研究書。こういう本が増えるのは大歓迎なのだけれど。