マレーシア・インドネシア関係/TKI

ジャカルタで買った本のうちマレーシア・インドネシア関係のものとTKI関係のもの。


Malaysia Macan Asia: Ekonomi, Politik, Sosial-Budaya, & Dinamika Hubungannya dengan Indonesia. (Khoridatul Anissa. Garasi, 2009)
マレーシアの政治経済、社会文化、インドネシアとの関係について。4つの章で、マレーシアの国勢、州別の状況、経済状況、インドネシアとの関係がまとめられている。
第4章の「インドネシアとの関係」では、1960年代のマレーシア対決政策にはじまり、2000年代以降の領土紛争、インドネシア人労働者(TKI)問題、木材の不法伐採問題、そして「文化の盗っ人」事件がカバーされている。ほとんどインドネシア側のソースをもとに書かれているので話はインドネシア側に偏りがちだが、でも類書に多くみられるような「マレーシアをつぶしてしまえ」という態度を前面に出した書き方をしていないので、ふだんマレーシアを見ているのと別の角度からの見方を知るには悪くない。
「別の角度からの見方」の例。この本ではマレーシアの民族を「ムラユ、チナ、その他」と紹介している。言うまでもなく、マレーシアだったら「ムラユ、チナ、インディアの3民族」となるところで、「3民族」という縛りなしでマレーシアを語っているのはとても新鮮に映る。ついでに言うと、「その他」はサバ・サラワクの先住民(国民の11%)とインド人(同7.1%)とされている。サバとサラワクの先住民を合わせて数えているところも新鮮だし、インド人をそのあとに持ってきているところも新鮮だ。
さらに興味深いのは「ムラユ」(マレー人)の説明。インドネシアで「ムラユ」はインドネシア国民を構成する多民族のうちの1つでしかないけれど、マレーシアで「ムラユ」はムスリム系諸民族の総称のことで、この2つが違う概念だとわからないと頓珍漢な話になってしまう。この本はマレーシアのムラユとインドネシアのムラユが違うことを丁寧に説明してくれている。インドネシア研究者にもぜひ読んでもらうべきだろう。
タイトルの「Macan Asia」は「AsiaのMacan」ということだが、macanはマーチャントすなわち商人だから「アジアの商人」かと思っていた。ところが本屋の中を走りぬけていくと表紙にmacanと書かれた本が多く、これは何かと思っていたら、macanとは十二支のトラのことらしい。というわけで「Macan Asia」は「アジアのタイガー」という意味だった。macanの本が多かったのは、来年が寅年なので運勢占いの本がたくさん出ていたということ。トラといえばハリマオかと思っていたけれど、インドネシア語もなかなか奥が深い。


Melepas Ranjau TKI: Strategi Pemberdayaan Buruh Migran. (Eggi Sudjana, RMBooks, 2009)
海外出稼ぎインドネシア人労働者(TKI)についての本。TKIはマレーシアに限らないけれど、多くの部分がマレーシアに行っているので、TKI問題はマレーシア・インドネシア関係の重要な部分を占めている。
TKI問題ではいろいろな本があるが、この本は学術研究としてまじめに取り組みつつ、現実に起きている問題の解決のための策を模索している。TKIが生じる社会背景、TKIとなるプロセス、TKIが直面している問題、主要渡航先別のTKIの状況、TKI問題解決のための提言、そしてこれまでに生じたTKIが外国で巻き込まれた事件などが紹介されている。マレーシアを含む諸外国で非人道的な扱いを受けているTKIがいることは確かだけれど、それを受け入れ国の非人道性のせいにするだけでは問題の解決にならないため、送り出し側における社会経済的背景や斡旋・渡航などのプロセスを見直すべきというもの。


Ulid, Tak Ingin ke Malaysia. (Mahfud Ikhwan, Jogja Bangkit Publisher, 2009)
実話に基づく小説。ジャワの農村の貧しい家庭に生まれたウリドが、タイトル通り「マレーシアに行きたくない」という話。マレーシアに行って大変な目にあった話かと思ったが、ぱらぱらと見ている限り、マレーシアの話はほとんど出てこない。ウリドの友だちはみんなマレーシアに行ったらしく、行かずにインドネシアに残った人のことを描くことでマレーシアに行くことを描こうとしているのかなどと想像してみる。各章のとびらに1980年代以降のマレーシアの政治状況が書かれているのだけれど、その意味も気になる。ちゃんと中身を読まないとわからないだろうが、かなり長いので当分読む暇はとれないかも。


Indoneshia Terkini
TKI雑誌の2009年10月号。前回編集部を訪れたとき、海外にいるインドネシア人たちは「TKI」という表現を嫌うので雑誌名をTKIにするのをやめたと言っていたけれど、この号の巻頭記事は「成功したTKI」だったりする。表紙にTKIと出ていなければいいということか。香港のTKI映画「Minggu Pagi di Victoria Park」の予告編がyoutubeで公開されているとの記事もある。英語タイトル「TKW, Hong Kong Rhapsody」で検索すると引っかかる。