映画「2012」と「ディストリクト9」

先週末の話になるけれど、地震発生から2ヵ月目の西スマトラに行き、帰りは文字通り駆け足でジャカルタシンガポールを経由して帰国した。西スマトラの話は別の機会に。


ジャカルタでの自由時間は夕食後の数時間だけ。本屋を2軒走りまわると、あとは夜遅くに映画を1本観る程度の時間しかない。せっかくジャカルタ映画祭が始まっていて、日程としては「空を飛びたい盲目の豚」やヤスミン・アフマドの全作品(15マレーシアも含む)が観られる機会だったのだけれど、時間帯があわない。あまり候補がなく、「2012」を観ることにした。災害映画だし、日本でも観られるけれど、どうせならインドネシアの観客の反応も見てみたいということで。
率直に言って、観終わってあまり心地よい気がしなかった。ご都合主義だというのは映画だからそんなものだと思ってあまり気にならなかったけれど、その裏に「男と女が正式に結婚して子どもを作るのが正しい家庭のあり方、それ以外は家庭に対する裏切りなので死んでしまえ」というメッセージを感じたため。直接そう言っているわけではないけれど、合法的な夫婦仲を壊す立場の人はことごとく死んでいく。法的な結婚以外の関係を結んだこと以外には悪いと思われることを何もしていなくても死んでしまうということは、この映画が合法的な夫婦の仲を裂く存在を罰しているということに他ならない。ネット上で検索したら、この監督の映画はいつもそうだという話と監督はカミングアウトしたゲイだという話があったけれど、この2つの情報がうまく像を結ばない。


それに比べると、行きのシンガポール航空の機内で観た「ディストリクト9」はよかった。もともとホラーやスプラッターは得意でないのだけれど、機内食のエビを食べながら最後まで観ることができた。
突然大量にやってきて居ついてしまったエビちゃんエイリアンたちを別の土地に移住させることになって、国連職員みたいな好青年が言葉も理屈もほとんど通じないエビちゃんに同意書にサインしてもらう必要があり、武装した兵士に守られながら怖々(でも顔は笑って)エビちゃんたちを1軒1軒訪問する。エビちゃんが同意書を手で叩き落としたらその跡を書名だとみなすとか、エビちゃんに好物のネコ缶を与えるのと引き換えに同意書にサインさせるとか、人道支援の現場で起こっていることをなかなかお茶目に描いているのがよかった。