メダンの日本文化祭

ゆかたで出迎える学生

今日は早起きしてメダンの国立大学で開催された日本文化祭へ。
ゆかたを着たインドネシアの学生たちに出迎えられて開会式会場へ。日本の総領事、そして主催校の学長が到着して開会式。
女子学生による歓迎の踊り。まずはマレー舞踊。久しぶりにマレーマレーした踊りを見た。北スマトラだと地元の踊りと言えばバタックではなくマレーになるんだろうか。続いて日本の踊りは、「言葉はそれぞれ違っても身振り手振りで心は伝わる、世界のいろいろな民族が踊りでつながろう」という内容の歌にあわせてゆかた着で踊っていた。
開会式の挨拶では、文学部長も学長も、これまで日本から日本語教育の機材などをいろいろ供与してもらったのはありがたいけれど、メンテナンスが悪くて使えなくなってしまった、だから直してもらうか新しいものを供与してもらうかできるとありがたい、と堂々と言ったのには驚いた。5年前に日本の大使がこの大学を訪れたときにも同じようなことを言って関係者を唖然とさせていたので、必要なときにきちんとおねだりするのは長としての役まわりということなんだろうか。開会式に出ていた教員や学生たちが小声で「恥ずかしいからそんなこと言うな」と言っていたので少しだけほっとした。
開幕宣言の後、総領事が学長を案内する形で日本のおもちゃ展や折り紙展の会場へ。ホストとゲストが逆のような気もしたけれど、総領事は楽しそうにおもちゃを1つ1つ説明していた。会場は何箇所かに分かれていて、会場ごとに書道やゆかた着付けやヘアスタイルや剣玉などいろいろな催しものが行われるらしい。ほとんどがコンテスト形式で、審査員は外部の人がよいというのでメダン在住の日本人が頼まれていた。
初日の午後のメインイベントは野外の特設会場でのカラオケ大会。まずはうるさ方を黙らせる作戦なのか、はじめは教員の部で、日本語学科の先生たちが順番に気持ちよく歌っていた。フルコーラスなのでとにかく時間がかかる。審査員のメダン日本人会会長が最前列で聞いていたけれど、たいへんな役割だ。続く一般の部を含めて50人近くが歌うらしい。


帰り際、文化祭を企画した若手教員2人にお疲れさまと言うと、「本当に疲れましたよ、他の先生たちは準備を一切手伝わないで今日は気持ちよくカラオケで歌っているだけなんですから」だそうだ。でも、よく聞いてみると、単に準備を手伝わなかったということだけではないらしい、。
もともと文化祭の話が出たとき、この大学の日本語学科の学科長は、失敗したときの責任を負わされるのがいやで、「文化祭を開くのには反対しないが、学科としては一切責任を負わないし協力もしない、だから実行委員2人の責任で行うように。文化祭のパンフレット類にも日本語学科の名前を一切書いてはならない」とわざわざ学科会議で明言していたらしい。ところが、総領事館や日本人会を含む各方面の積極的な協力によって大掛かりな文化祭が行われることがわかると、開催の2、3日前になって日本語学科長が「どうしてパンフレットの共催者に日本語学科の名前が書かれていないんだ」と運営委員2人を叱責したんだとか。そりゃあ疲れるよね。ほんとにお気の毒としかいいようがない。


日本人でもないのにゆかたを着たり日本語のカラオケを歌ったりしてみんな楽しんでいる様子を見ていて、陰暦正月に華人でないインドネシア人が中国服を着たり華語カラオケを歌ったりしているのも、当人たちにとってはそれと同じようなノリなんだろうなと思う。
日本文化祭は2月14日から16日まで、北スマトラ大学にて開催中。


陰暦正月がらみでちょっと気になったのは、陰暦正月の広告や看板に「2559年」と書いてあること。キリスト教暦やイスラム教暦など宗教に基づく暦は起源があるかもしれないけれど、陰暦には起源の年がない、したがって「今年は陰暦何年」という言い方はしないものかと思っていた。
どうして2559年なのか尋ねてみたけれど、華人を含めてみんな馴染みがなくてよくわからないという。少なくともつい最近になって言い始めたものらしい。調べてみると、どうやら孔子さまの誕生日から数えているらしい。
もしかしたら、インドネシア儒教が公認宗教として認められたことと関係があるのかもしれない。インドネシアでは、イスラム教、カトリックプロテスタント、仏教、ヒンドゥ教の5つが公認宗教と認められてきたけれど、スハルト体制後に儒教も公認宗教の1つとされたらしい。
儒教の暦があるとしてもどうしてそれが孔子さまの「誕生」から数え始めるのかという疑問はまあいいとしても、華人キリスト教徒の例を出すまでもなく、華人と陰暦と儒教の3つは互いに重なる部分があるとはいえ完全に一致しているわけではない。なのに、中華文化と陰暦2559年が一緒に語られることで、この3つがごちゃ混ぜにされている。
でも、そういう違和感はあるけれど、「陰暦2559年」で伝えようとしているメッセージは明らかだ。「自分たちは、キリスト教よりも500年、イスラム教よりも1000年も古い」と言いたいのだろう。
日本では「中国五千年の歴史」(以前は「中国四千年の歴史」と言っていた)という言い方が馴染んでいるけれど、インドネシアでは人々に理解されるためには宗教の形で語る必要があるということなんだろう。


陰暦正月の赤い飾りの中にハート型の飾りが混じっているので何かと思ったら、今日はバレンタインデーだった。メダンではバレンタインデーにどんなことをするのか聞いてみたら、何か特定のものをプレゼントするということはなく、恋人どうしが食事に行く日だそうだ。支払いは男性。ということは日本のクリスマスイブと同じようなものか。
イスラム教徒のミナンカバウ人による「単一民族州」に近い西スマトラ州のブキティンギでは、バレンタインデーは「風紀を乱す」ために禁止すべきという声が上がっているらしい。このところジャカルタやメダンでは中華文化インドネシアの多様な文化の一部として受け入れられている印象を受けているけれど、広いインドネシアでただちに素直に中華文化が受け入れられるとは考えない方がよいのかもしれない。