シンガポール映画「ゴーン・ショッピング!」

シンガポール映画「ゴーン・ショッピング!」を観た。大阪アジアン映画祭で上映されたらしいけれど、そちらは観られなかったのでDVDで。日本語字幕がとてもよかったという話を聞いているので、それが観られなかったのが残念。

舞台はシンガポールの3つのショッピングセンター。オーチャード・ロードのタンズ(日本語のガイドブックなどではタングスとも)、マリナ地区のマリナ・スクエア、インド人街のムスタファ・センター。それぞれ別々に話が進んでいくけれど、主人公のクララはこの3つのショッピングセンターを行ったり来たりするので、クララを通じて3つの話が絡んでくる。

「ゴーン・シッピング!」についてよく見る紹介文は、「シンガポールのアラフォー物語」と「ショッピングセンターで暮らすことになった女性の物語」の2つ。アラフォー物語というのはまあ間違いじゃあないだろうけれど、「ショッピングセンターで暮らす」というのはどのあたりから出てきた情報なんだろうか。クララは3つのショッピングセンターに入り浸っているけれど、そこで暮らしているわけではない。タンズで夜になって閉店するシーンがあったように、24時間営業なのはムスタファ・センターだけ。

「今年40歳」というクララは1965年独立のシンガポールとほぼ同じ歳ということになる。ショッピングにはまるクララは、国の発展のためと言って世界中からいろいろなものを買い付けているシンガポールと重ねられているのかなとか、クララが薬を飲んでいたことはシンガポールが製薬で世界中の優秀な人材を集めていることと重なっているのかななどと想像してみるけれど、うまく像が結ばない。シンガポールは国全体がショッピングセンターみたいなものだという台詞もあったけれど、そちらの方向でもあんまりおもしろい絵が出てこない。

「外国旅行しようかな」というクララに「外国にはテロリストがいるから気をつけて」とジェニー。そのころマリナ・スクエアではアアロンたちがショッピングセンターで買い物している連中を「やっつけてしまえ」と言い、そしてムスタファ・センターではレヌちゃんがテロリスト風の男を見かける。テロリズムは外国の問題で自分たちには無関係と思っているシンガポール人たちに対して国内のショッピングセンターでテロを起こすことで目を覚まさせる映画かな、なんて思ったら全然違っていた。

従業員たちが仕事の合間に噂話をしていて、そのやりとりでお互いに「イポー娘」「KL娘」などとからかい合っているのがおもしろかった。従業員はみんなマレーシア華人で、しかもマレーシアの出身地別に性格が違うらしい。

シンガポールの男たちは「いい人」たち。初体験に幻滅してセックスと無縁に生きることにした青年や、付き合っている女の子が別の男とも親しくしているのを見て恋愛に幻滅してしまうアアロンとか。クララの初恋の相手バレンタイン(懐かしい顔だと思ったら、かの名作「フォーエバー・フィーバー」のホックだった)もクララに手を出そうとしないし。クララの旦那が台湾人という設定なのは、シンガポールの男が妻子のほかに愛人を囲うなんてリアリティなさすぎとか思われたんだろうか。

DVDには副音声で監督とクララの解説が入っていて、そちらも楽しめる。有閑マダム役がぴったりはまっているクララ役の女優は実はものすごくしゃべるのが早くて、撮影では雰囲気を出すためにゆっくりゆっくりしゃべるよう努力したんだとか。映画ではシンガポール航空のCAだったときに旦那と出会った設定になっているけれど、彼女は実生活でもシンガポール航空のCAだったことがあり、そのときの経験からばっちりメイクを決めたらしい。撮影裏話もおもしろいけれど、あのクララがマシンガンのようにしゃべっているのを聞いて、その姿を想像するのもまた楽しい。