「スラムドッグ$ミリオネア」

イギリスで作られたインド映画。とてもよくできていて最後まで楽しめた。あらすじなどは他のサイトにあるので省略して、ここでは感想のみ。
ジャマールは第2問で早々にライフラインの「オーディエンス」を使った。うろ覚えだけれど、問題は「インドの国章の下には何と書かれているか」で、選択肢は「真実のみが勝つ」「嘘のみが勝つ」「ファッションのみが勝つ」「金のみが勝つ」の4つ。ここでオーディエンスを使ったのは、インドで普通の教育を受けた子どもならだれでも知っている一般常識をジャマールが知らないことを示して、それ以降の問題にジャマールが正解を続けたのが何らかのトリックによるものだと疑いがかけられるというように話が続いていくわけだけれど、もしかしたらジャマールはこの問題の答えを知っていて、あえてライフラインを使ってみたんじゃないかと思った。まるで金が全てのような暮らしに身を置かされている同国人たちが「金のみが勝つ」を選ぶのかどうか、敢えて訊いてみたという皮肉もあるんじゃないかと。
インド事情がわからないためによくわからなかったこと2つ。
ヒンドゥー教徒たちに襲撃されたシーンがあるのでジャマールたちがイスラム教徒だというのはわかるけれど、それ以降のシーンでは宗教性が問題にされることがなかったので、人々がイスラム教徒なのかヒンドゥー教徒なのかがよくわからなかった。ヒンドゥー教徒との関わりは最初に襲われた場面だけであとはずっとイスラム教徒のコミュニティ内の話なのか、それともヒンドゥー教徒もたくさんいたけれど民族的な対立があったのは一時的なものだったのか、あるいは別の土地に移ったために大きな問題とならなかったのか、あるいはイスラム教徒であるために差別的な待遇を受けいていて、それが映画でも描かれていたのだけれど、インド社会に関する知識が足りないために私が気付かなかったのかなど。インド研究者による解説を期待したい。
もう1つはお金の価値。アミターブ・バッチャンのサインが「高く売れた」とき、もらったのはコイン2、3枚だった。あとで100ドル札のチップの話が出てくるけれど、それは子どもたちが道端で物を売っている何日分にあたるのかなどがわからなかった。
スラムドッグ$ミリオネア」のジャマールといい昨日の「マリと子犬たちの物語」の彩ちゃんといい、どちらも苦しい状況のなかでも前向きに頑張って幸せを手にしている。それについてはもちろん文句はまったくない。ただし、その物語の裏でどちらも実はお兄ちゃんが支えてくれていたからこそ幸せが手に入ったのだということも、世のお兄ちゃんたちのためにメモしておこう。


追記.インドの専門家による「スラムドッグ$ミリオネア」の解説によると、ムンバイでは1992〜93年頃にヒンドゥー教徒イスラム教徒の対立が激化したとのこと。
http://www.toho-univ.ac.jp/blog/professor/2009/04/post-93.html