コタキナバルのブルネイ人

コタキナバルは海沿いの街、というより海に向けて広がり続けている街なのだが、街を歩いていても海がほとんど見えなくなった。護岸工事?のために海岸に沿って囲いが立てられ、海にアプローチできなくなった。だからちょっと高い建物に上らないと海が見えない。
これは、逆に見れば海から街にアプローチできなくなったということでもある。コタキナバルの沖に浮かぶガヤ島などの島に住む人たちがボートで街にやってきても、陸に上がれる地点が限られてしまっている。というより、不法入国者がボートでやってくるのを防ぐために護岸工事をしているという人もいるほどだ。これは、放っておくと舟がたくさん来るから制限するという発想だ。
舟(人)とゴミを一緒に扱うわけではないが、コタキナバルのタンジュンアル・ビーチでは、一般家庭などから出るゴミや汚水が海岸にたまり、悪臭が漂う上に、藻が大量発生して困っているらしい。柵を作るとか藻をせっせと取り除くとか対策が練られているようだが、海を通じて流れてきてしまうので根本的な解決は難しい。
コタキナバルは、あるいはそれを拡大して理解するならサバは、海を通じて外の世界に開かれた土地だ。ゴミや汚水のような困ったものだけでなく、カネやモノやヒトや情報などのように使い方によっては有益になるものも外からやってくる。
それと対照的なのがバンダアチェだろう。バンダアチェ(拡大して理解するならアチェ)では、外とつながるために海岸のあちこちを工事して舟が出入りできる港を作ろうとしている。外の世界とのつながりは重要だが、放っておくと閉じてしまう土地柄なので、とにかく積極的に外に向けて開いていこうとする様子が感じられる。
これに対してサバは、いやだと言おうが何をしようが、外からいろいろなものが入ってきてしまう。それは、うまく使えば有益だし、対応を間違えると悪い影響を及ぼすこともある。来てしまうものはしかたないので、それを受け入れて、悪い影響を及ぼさないよに社会の中に取り込んでいくしかない。どこからどう見ても外国人だとしても、通婚などを通じてうまく社会に取り込んでいくのがサバの知恵だと言える。だからサバには民族性を尋ねると混血していると答える人が多いし、どこからどう見ても白人にしか見えない人物が州首相に選ばれたりもする。だから私のような外来者も心地よく滞在することができる。


最近コタキナバルで目立つ「外来者」と言えばブルネイ人たちだろう。コタキナバルにブルネイ・ナンバーの車がたくさん走っているし、ショッピングコンプレックスやレストランでもブルネイ人をたくさん見かける。10年ほど前は、コタキナバルからブルネイに陸路で行こうとするとボーフォートから先の道路ががたがたで、しかもその先も川をいかだで越えなければならないところが何箇所かあり、とても車では行けなかった。いつの間にかブルネイからコタキナバルまで車で楽に来られるようになったようだ。
念のために書いておくと、ここで言うブルネイ人とはブルネイ王国の国民で、民族性はほとんどがブルネイ・マレー人。王族である度合いが高く、総じて金持ちだと言える。それに対して、サバに住んでいるマレーシア国民の一部に、民族性がブルネイ・マレー人である人たちもいて、どちらも「ブルネイ人」と呼ばれるため、ちょっとややこしい。サバのブルネイ人はブルネイブルネイ人ほど金持ちではなかったりするが、教師が多く、かつてサバの人々の知的水準を引き上げるのに大きく貢献した人々だ。
昨日は久しぶりにブルネイ・マレー語の会話に混ぜてもらった。マレー語とほとんど同じだけれど、ちょっとした表現が違っていて、たとえば「はい」は「ya」ではなく「au」になる。だからブルネイ・マレー語で会話をするとアウアウ言いあうことになる。
このように、サバの他の人たちが話すマレー語とちょっと違うブルネイ・マレー語を話すし、自分たちのことを「ブルネイ人」と名乗るのだけれど、サバのブルネイ・マレー人はなぜかブルネイブルネイ人に対してあまり親近感を持っていない。というより、「ちょっとばかり金持ちだからってお高くとまっているのがいけ好かない」と言ったりしている。ブルネイ人であることを誇りに思いながらブルネイではなくサバの一員であることを誇りに思うという誠に興味深い人たちだ。
さて、昨日はアウアウ言いながらどんな話で盛り上がっていたかと言えば、他民族と結婚したときに子どもの教育をどうするかという話。サバで育てるのかクアラルンプールに行くのか、それとも一方の親の祖国に戻るのかなどの選択のほかに、サバで育てるけれど華語学校に入れるかどうかなど、将来の設計や財政状況などを天秤にかけながらそれぞれ悩んでいるようだった。意外なことに、久しぶりに会った知人は子どもを華語幼稚園に入れていて、華語小学校に入れようとしていた。どこでも子どもの教育は一大事だと改めて思うとともに、サバのブルネイ・マレー人の結婚相手の民族性が多岐にわたっていることにも改めて驚いた。