アミル・ジャヤの小説の英訳

何の縁か、マレーシアの本屋でこんな本を見つけた。
Amil Jaya. Burial Urn. (Institut Terjemahan Negara Malaysia, 2009)
著者のアミル・ジャヤはサバ出身でマレーシアの国民的な作家。サバ出身で全国レベルで通用する作家として高い評価を得ていたが、ASEAN作家賞をとったことで国外でも通用するとなってさらに評価が高まった人。サバの将来がどうなるかまだはっきりしなかった1950年代、新聞への投稿を通じてサバのあり方を模索していた人の1人でもある。
アミル・ジャヤはいくつも作品を書いているけれど、特に私が「アミル・ジャヤ三部作」と呼んでいる作品群がある。サバやサラワクの先住諸種族を取り上げ、西洋近代やイスラム教などが入ってくることで社会がどう対応するかを描いたもの。ところが大作家だけあってけっこう癖のあるマレー語を書くので、読みとおすのがなかなか難しかったりする。
この本は、「アミル・ジャヤ三部作」のうちサバを舞台にしたBagatonの英語訳。ムスリムの若者が非ムスリムの女性と結婚しようとして父親たちに反対されて・・・という話。アミルジャヤ自身が、父親がバジャウ人(ムスリム)、母親がカダザン人(非ムスリム)という組み合わせで、それと重ねて読んでも興味深い。物語として設定されている時代はずっと昔だけれど、話としては今のサバにも十分通用する。英語訳が出たことでより多くの人が読めるようになったのは喜ばしいことだ。ついでに、アミル・ジャヤの好敵手だったK.バリの小説(Bogelとか)も出ればいいと思うけれど、こちらはちょっと無理か。
ちなみに、この本の版元であるInstitut Terjemahan Negara Malaysia(マレーシア国家翻訳研究所)はマレー語の著作を英語に翻訳して刊行している団体だそうで、ウェブサイトによれば、これまではマハティールの著作やイスラム教関係の著作の翻訳を中心に行ってきたけれど、2009年からは文芸作品の翻訳も始めたらしい。その数少ない最初の作品にアミル・ジャヤを選んだとはかなりの目利きがいると見た。アミル・ジャヤ三部作のNgayauの英語訳もすでに刊行されている。
ウェブサイトの英語ページは工事中が多い。マレー語ページでは刊行済みの作品リストなどが得られる。