サバで増えているもの

ヤスミン作品の話が続いたが、少し時間を戻して8月のサバ訪問の話。
久しぶりのサバはいろいろと変わっていた。サバ開発問題研究所(IDS)はカラムンシン・コンプレックスから出てプナンパンにある独立した建物に入っていた。州経済企画庁(EPU)はMUISビルから移る準備を進めているらしい。コタキナバルの老舗日本食レストランの錦がガヤ街から港の方に移っていた。
一方で、新しいショッピングセンターが各地にできていた。コタキナバルではウィスマ・サバの隣にスリアができていた。プタタンには道の陸側に商業ブロックができていた。プナンパンには横に長いショッピングセンターができていた。そして内陸部のケニンガウではケニンガウ・モールというショッピングセンターがオープンして、ドゥスンやムルトのおばちゃんたちがエスカレーターの乗り降りができずに戸惑っていた。映画『オラン・キタ』でサバっ子がエレベーターに乗れずに驚いているのは決して誇張じゃなかったということか。
これらのショッピングセンターの多くはまだ建物だけでテナントは半分ぐらいしか入っていないものも多いが、そのどこにでも入っていたのがCD/DVD屋。しかも、これまでサバではCD/DVD屋と言えばほとんどの店でコピーではなくオリジナルを売っていたのだけれど、半島部マレーシアでよく見かけるようなコピーを売る店が急速に増えてきた印象がある。SPEEDYのようにオリジナルしか売らない店もあるのだけれど、でもそこでは半島部から仕入れているのでサバの地元CDは並んでいない。サバ制のVCDの新作をほとんど見なかったのが少し気になる。
もう1つ、コタキナバルの町を歩いていて気になったのが、道端で歩いている子どもたちをほとんど見かけなくなったこと。少なくとも20年前から町のあちこちにいて、タバコをばら売りしたり靴磨きをしたりしてくれていたのだけれど、今回はタバコ売りにも靴磨きにも一度も会わなかった。
政府や民間企業で働いている友人たちに会うたびにそのことを尋ねてみた。期せずしてそのころマレーシア・インドネシア関係がかなり悪くなっていて、妙なタイミングになった。
2、3年前からサバを訪れる外国の研究者や人道支援団体が増えてきたらしい。これまでも外国人研究者はサバに来ていたが、その多くは自然を研究対象とする人たちだった。最近よく来る人たちの関心は、なぜかサバに滞在するフィリピン人とインドネシア人の人権に集中しているらしい。サバの人たちは、この地にやってきたからには出身がどこだろうと互いに協力してこの地の発展のために努力し、発展の恩恵をともに享受したいと思っているけれど、来たばかりでこの土地の慣習やしきたりに慣れていない人たちや、出身国で正規の手続きを踏んでいないためにこの土地で法的に位置づけにくい人たちがいて、その人たちをどのようにこの社会に位置付けようかと工夫しているという。それなのに、外国人がやってきては彼らに「フィリピン人」「インドネシア人」と標識をつけて、彼らの権利を代弁し、そして彼ら自身にも声を挙げるようにと力を与えようとする。そのため、せっかく地域社会に定着させようと努力しても、その努力が実を結ぶ前に足を引っ張られてしまうという。
いわゆるストリート・チルドレンにしても、地元の教会やNGOが時間をかけて彼らに読み書きや起業の手ほどきをして、地域社会の中に居場所を見つけられるようにしようとしても、外国からやってきた支援団体が彼らを「フィリピン人」「インドネシア人」として調査や支援の対象にして、彼らの祖国のアイデンティティを維持した教育を与えようとしたりするものだから、地元の地域社会に受け入れられつつあった子どもたちが自分たちはフィリピン人であるとかインドネシア人であるとか言うようになるのが悩みどころだとか。この話を話してくれた教会の人は、どうして自分がこんな目にあわなければならないのかとても悩み、答えを求めて神に祈り続けたら、何ヵ月も祈り続けるうちにようやく状況を受け入れられるようになってきた、神の御心に触れた、と話してくれた。
外国の研究者や支援団体が入るのにはよい面もある。その社会の内部の人たちだと互いに言いにくいことを外部者の立場で言えるため、問題の指摘や解決に結びつくこともある。だから、外国人は地元社会の意向に服従する必要はなくて、自分たちの立場を明確にするのはよいことだと思う。そして、事前に一般論で考えて「インドネシア人やフィリピン人の移民やその子どもたちがかわいそう」というイメージを持って、その問題に対して何かできることはないかと思ってサバにやってくるのは少しも悪いことではないと思う。でも、現場に来て現実を見ていろいろな人の話を聞いて、その過程でもしかしたら来る前に抱いていた前提を修正しなければならなくなるかもしれないけれど、でも「予算がついてしまったから」とか「計画を立ててしまったから」という理由で修正がきかないのであれば、そんな活動は中止するか、やったふりだけして実際には何もしない方がずっといいと思う。
今回サバで出会った日本の大学生グループは、支援チームと調査チームが組み合わさってグループになっているらしい。この方法はよい工夫だと思うので、支援と調査がどう結びついていくのか、今後の活動を見守っていきたい。