シネ・マレーシア

日本で初めてのマレーシア映画祭「シネ・マレーシア」が開催される。主催者ではないが、ご縁でいくつかの部分で関わることになった。

別の映画祭と重なっているのだけが残念。シネ・マレーシアで上映される作品はどれも一度は観たことがあるけど、『イスタンブールに来ちゃったの』とか『ブノハン』とか、何度でも劇場で観たいのもあるし。『イスタンブール・・・』と言えば、大阪アジアン映画祭のQ&Aセッションで「今日は夫と来たのですが、もう一度女性どうしで観に来たいと思いました」と言っていた人がいた。確かに『イスタンブール・・・』は女性に人気があるようだけど、会場でその発言を聞いて「今度はパートナーと2人で男性どうしで観に来たいな」って思う人もいたんだけどね。

今回「シネ・マレーシア」で密かに期待しているのは大阪で大評判の『新世界の夜明け』の東京進出。マレーシアは今月総選挙があったし、マレーシアの熱意と映画人の熱意が交わった部分が「夜明け」という形を取ったのかもしれない。映画祭というお祭りの雰囲気とも重なっていてよい感じ。

今回の「シネ・マレーシア」には、いろいろなスタイルの作品が集まっている。長編・短編とか、国内劇場での公開作品か国際映画祭への出品作品かとか、主にマレー人社会を描いた作品と主に華人社会を描いた作品とか、大都会クアラルンプールを舞台にした作品と地方の漁村を舞台にした作品とか。こうして見るとばらばらなセレクションにも見えるけれど、でも実は「家づくり」というテーマで貫かれているように思う。「家」というのは、親子や恋人どうしという家族作りだけでなく「舞台=家」とか「国=家」とかも含めて。そして、その裏にぴったり貼りついているのが「外国人」。タイ人やミャンマー人や日本人もそうだし、外国に行ってしまった人もそう。どの作品にも何らかの意味で「外国人」が出てきて、それぞれ「家づくり」で重要な役割を担っている。

マレーシア映画文化研究会のブックレット刊行は、前回刊行から少し間があいたけれど、イベントのたびに「もうブックレットは出ないんですか」と声をかけていただいたことと、いろいろ語りたいと思う作品がいくつか出てきたので、「シネ・マレーシア」上映作品の長編を中心に紹介してみた。時間の余裕がなくて短編を紹介することができなかったのが残念だけれど、それはまた別の機会に。
今回のブックレットは、文章を読むだけでイメージが立ち表われる野澤さんや中華の古典を引いた解説に安定感のある及川さんたち常連執筆陣に加えて、クランタン方言の『ブノハン』の日本語字幕を担当した戸加里さんや、大阪アジアン映画祭で『イスタンブール・・・』のアパートの間取り図を描いてバーナード監督を感激させた谷川さんにも寄稿していただいた。
私は、『ブノハン』の3兄弟の役者の経歴とか、『理髪店の娘』に出てくる観覧車とか、『The Collector』で男の居場所として教えてもらった地名が実際に男がいた場所と正反対のところだったとか、『Fun Fair』の鉄道の話とか、本題とは関係ないところで小ネタで書きたいこともいくつかあったんだけれど、時間切れでこの場で書いたものの再構成ばかりになってしまった。マレーシア人にもわかりにくいと評判の『ブノハン』は、かなり細かいところまで書いた内容紹介を載せているので、鑑賞前に内容に関する予備知識を入れたくないという人はご注意を。

それから、マレーシア映画文化研究会がこれまでに刊行した『タレンタイム』などの5冊のブックレットが在庫切れになっていたので、この機会に少しだけ刷り直して新装版を作った。見かけはほとんど一緒で、違うのは背にタイトルが入ったこと。内容は旧版と全く同じなのでお間違えのないよう。

マレーシア映画文化研究会HPもこれを機会にリニューアル。まだ引っ越しか完全に終わっていないけれど、マレーシア流でまずソフトオープンということで。グランドオープンの際には対象を研究会運営メンバー以外にも拡大して情報発信や意見交換ができるようにしたいので、アイデアやスキルをお持ちの方は声をかけてください。