フィリピンの映画祭

フィリピン滞在中には通信環境の問題で書けなかったことのメモ。まずはマニラ首都圏の映画祭について、日付順に。作品紹介よりも開催情報を中心に。以下の情報は日付を含めて2015年6月〜2016年5月の情報。


6月29日〜7月7日、World Premieres Film Festival
会場はマニラ首都圏のSMモール(North Edsa、City、Megamall、Mall of Asia、Southmall)
会場どうしが電車で1時間以上も離れているため、事前にプログラムを見てあれこれ考えて行く会場を決めたけれど、上映直前になって(ひどいときには上映時間が過ぎてから)技術上の問題で上映中止と言われることが繰り返されて来場者の不満が続出した。1000席ぐらいの劇場に30人程度のことが多く、満席になることはない。作品は技術的な完成度が低くて(服が擦れる音が入ったりする)学生の卒業制作かと思わせるようなものも一部にあったけれど、現在のフィリピン社会のありようを劇映画で紹介するという意味で興味深い作品が多かった。
新作ではないけれど「A Portrait of the Artist as Filipino」と「Insiang」のリマスター版が見られて満足。


8月7日〜15日、Cinemalaya
メイン会場はフィリピン文化センター(CCP)内の4スクリーン、ほかにマカティ地区Greenbeltのシネマ(1スクリーン)でも。
フィリピンのインディー映画最大の映画祭シネマラヤ。プログラムが発表されたのが初日の前日だったけれど、フィリピンの映画祭は多くの場合そんなものだと後でわかった。検閲なしの何でもありの映画祭。どの作品も上映回数が少ないのでどれを見るか悩む。当日のチケット窓口には人が殺到して時間がかかるし売り切れも出る。作品情報はミニマムなので見る作品はほとんど勘が頼り。新作と過去の優秀作品を並行して上映していて、新作には自分の好みに照らして当たりはずれがあるので、評判のよい作品だけ見たければ過去の優秀作品に行きたくなるところだけれど、何が来るかわからないのが映画祭の楽しさというところもあって選択が難しい。
CCPの4会場は1000人以上入る大会場から20人ぐらいしか入らない小会場まであって、小会場だとチケットが売り切れになることも。5枚綴りの1日券は「満席のときは入場を断る場合がある」と書かれているけれど、満席でチケットを売ってくれない回でも席が空いていれば1日券で入れてくれることもある。
2015年度の一押しは「Requieme!」。ほかに「Brutus」と「Jay」もよかった。「Enkwentro」は犯罪者取締りの私兵の話。


10月6日〜11日、Quezon City International Pink Film Festival (QCIPFF)
会場はケソン市内のモール(Gateway)のシネマ(1スクリーンのみ)、コミュニティ上映会は市内のバランガイの集会所でも。
ケソン市が運営する映画祭でLGBTに関係する作品を集めたもの。上映後のQ&Aでは映画祭ディレクターのニック・デオカンポ先生が毎回司会役を務めて、若手の映画人たちに温かい言葉ながらも鋭いコメントを投げかけている。この質疑応答もこの映画祭の楽しみの一つ。


10月22〜31日、Quezon City International Film Festival (QCinema)
会場はケソン市内のモール(Robinson Galleria、Gateway、Trinoma)のシネマ(各2スクリーン)。
シネマの2スクリーンだけ使って上映する。手作り感のある運営。満席になることはない。
「Sleepless」がよかった(2016年の大阪アジアン映画祭で「眠らない」の題で上映された)。


11月9〜17日、Cinema One Originals (C1Original)
会場はメトロマニラのモール(Trinoma、Glorietta、Megamall、Resorts World)のシネマ。
話題になる作品を多く上映している映画祭だけれど、これもシネマの片隅を借りて運営している手作り感のある運営。満席になることはない。
新作ではないけれど「Sana Maulit Muli」がよかった。新作では「Hamog」がよかった(2016年の大阪アジアン映画祭で「霧」の題で上映予定だったけれど上映取り消しになった)。「Dayang Asu」は救いのない話。


12月25日〜1月6日、Metro Manila Film Festival (MMFF)
会場はマニラ首都圏および主要な地方都市の各映画館。
クリスマスと新年の2週間、マニラ首都圏の全ての映画館で公式作品8作品だけ上映するフィリピン最大の映画祭。(3Dのシネマは例外なので『スターウォーズ』がかかっていた。)公式作品はほとんどが大手の製作会社によるもので、テレビCMを繰り返してメディア総出で宣伝している。人気の作品は満席になる。特に初日は朝一番にチケット窓口に並んでも夕方の回しか買えないことも。
2015年で一番よかったのは「Honor Thy Father」(2016年大阪アジアン映画祭で「汝の父を敬え」)。「Walang Forever」(2016年大阪アジアン映画祭で「ないでしょ、永遠」)、「All You Need is Pag-Ibig」、「The Beauty and the Bestie」、「My Bebe Love」もよかったけど、後の3つは地元でヒットするけれど外国の映画祭には呼ばれないタイプの作品なので、日本で見るのは難しいのかも。ウェン・デラマス監督の遺作になった「The Beauty and the Bestie」はいい話なんだけどね。
内容と違うところで気になったので1つだけ。「Nilalang」(邦題:存在者)は日本人女優の小澤マリアが出ているということで少し話題に上ったけど、日本人にはまっとうに評価できない作品かも。冒頭は17世紀初頭の日本、そこから現在のマニラに話が飛ぶ。時代や場所を示すキャプションが英語と日本語の両方で入る。その日本語訳はおそらく機械翻訳をそのまま貼りつけたもので、「フィリピン、マニラ港」となるべきところが「港のマニラ、フィリピン」になっていて、思わず「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」かよと言った日本人が何人もいたとか。ほかにも日本語のセリフが日本語ネイティブにとって奇妙なものが多くて、拉致犯が潜む場所を探り当てた警官が突入して拉致犯に銃を突きつけた緊迫の場面で、警官が拉致犯に「座ってください!」と命じるので拍子抜け。ほとんど全編がそんな感じでただただ苦笑するしかなかったけど、もしかしてこれが全部英語とかだったらこんな違和感は抱かずに別の評価をしたのかも。


4月22日〜26日、Sinag Maynila
会場はマニラ首都圏のSMモール(Megamall、North Edsa、Manila、Aora Premier、Mall of Asia)。
ブリランテ・メンドーサ監督が選ぶ公式作品5作品のみを上映する。満席になることはない。どれもそれぞれ硬派のよい作品。おそらくこの映画祭の問題ではなくNorth Edsaのシネマの問題だろうけれど、上映に技術的な問題があって心地よく見られなかったのがちょっと残念。作品は「Expressway」を筆頭によいものが多く、たぶん日本の映画祭で紹介されるんだろう。