フィリピン映画「痛ましき謎への子守唄」

この1年間に観た映画でよかったものをいくつかメモ。1つ目はフィリピン映画の「A Lullaby to the Sorrowful Mystery」。原題は「Hele sa hiwagang hapis」で、意味は「尽きせぬ苦悩への子守唄」、言葉を補って訳すと「答えの見つからない悲しみに満ちた物語に向けた子守唄」かな。
監督は作品の上映時間が長くて有名なラブ・ディアス。この作品の上映時間は8時間で、劇場では途中で2回休憩が入った。フィリピンで公開されたのは3月の聖週間で、電車も止まるしモールも閉まるしで街じゅうが休みになった状態で何箇所かの劇場で上映された。上映時間は4倍でも入場料は他の映画と同じ。


ホセ・リサールやボニファシオなどのフィリピン革命期の実在の人物を題材にした史実に基づく物語と、ホセ・リサールの小説の物語と、フィリピンで語られてきた伝承の世界の3つが混在する物語。
3つの話を別々に語ればいいのに一緒にしたので長くなってわかりにくくなっているんだけど、でも3つの話をあわせることで全体で強いメッセージを打ち出している。


機会があればぜひ観るべき。ただし初見ではとてもわかりにくい。全編白黒で図と地がまじりあっているという絵の作り方のせいもあるけど、フィリピン事情に通じていないと話についていけなくなるため。
フィリピン事情に通じていない人で、2回以上観る余裕がなくて、話の内容も理解したいという人は、(1)ホセ・リサールの『ノリ・メ・タンヘレ』と『エル・フィリブステリスモ』の主な登場人物とあらすじ、(2)アンドレス・ボニファシオの革命運動と妻グレゴリアについて、(3)ティクバランなどのフィリピンの伝説について一通り下調べしておくとよいかも。さらに余裕があれば、Jocelynang Baliwagの歌も押さえておくと観ていて盛り上がるかも。
いずれもフィリピン人には常識なので、劇中ではいちいち説明されない。でも、グレゴリアとオリヤンが同じ人だとわかれというのはかなり難易度が高い。


私のお気に入りの場面は、リサールの小説の登場人物であるイサガニとシモウンの2人がリサールの詩を暗唱して「これよりすぐれた詩はない」と感慨深げに言い合っている場面。しかもそれを言っているのがピオロさまとジョンロイドだったりする。
絵としておもしろかったのは、中国人商人との密会の場面でお茶を飲んでペッと茶葉を吐き出しているところとか、筒で阿片を吸引しているところとか。


追記.2016年の東京国際映画祭で『痛ましき謎への子守唄』の邦題で上映されるそうなので記事のタイトルをそれにあわせて変更した。
「Jocelynang Baliwag」の歌は以下のページがお勧め。
Jocelynang Baliuag - kundiman of 1850 - YouTube