フィリピン映画「REquieme!」ほか

2015年後半から2016年前半にかけて観た映画でよかったフィリピン映画をいくつか。(何年か前の作品も混じっているのはシネマラヤのように過去の作品を上映する映画祭で観たため。)


筆頭は「REquieme!」(2012年)。タイトルはrequiem(レクイエム)にフィリピンのゲイのスラング「kyeme」をかけたものだとか。家出して服の直し屋をしている女装者のジョアンナ。懇意にしている靴修理屋が急死したので葬儀を出そうとするが、親族でないため行政上の手続きや費用の工面に苦労して、自分の豊胸手術のために貯めていた金をはたいて葬儀を出す。一方、ジョアンナの母親はバランガイ長で、アメリカで殺人容疑をかけられて自殺した親戚の遺体を引き取ってフィリピンで葬儀をしようと奔走する。それぞれ葬儀を行い、2人の人生は交わらないまま。
最大の魅力はジョアンナがクールなトランスジェンダーを演じていること。演じているのはAnthony Falcon。フィリピン映画でスタイリッシュなゲイの俳優といえばバイス・ガンダがいるけど、バイス・ガンダがコメディ路線なのに対してアントニーはとってもクール。
身近な人が亡くなったけれど葬儀代が足りないとか親族ではないからとかいう理由で葬儀ができずに奔走するという話は、「Lola」(邦題「グランドマザー」)にも「Hamog」(邦題「霧」)にも「The Coffin Maker」(原題Magkakabaung)にも出てくる。フィリピン映画の1つの流行のテーマなのか。


「Jay」(2008年)は、実録ドキュメンタリーを作るテレビ局のジェイ。マニラで殺された英語教師の田舎で母親と妹に密着して再現ドラマを撮影する。ジェイはテレビ映りのよい絵を撮ろうとして被害者の母親と妹に葬儀を何度も繰り返させ、母親と妹はそのたびに感情たっぷりに遺族を演じていく。そのエスカレートぶりが滑稽だが、最後の場面でこれまでジェイたちを笑っていた観客もまた共犯だったことを知らされる。記録映像における演出とは何かを考えさせる作品。
マニラで殺された英語教師はゲイ。モデルはJennifer Laude。2014年10月11日、オロンガポで米兵が知り合った女性をホテルに連れ帰ったところ、女装した男性だったために怒って殺害した事件の被害者。Jenifferについて言及した映画はいくつかあり、ケソン市ピンク映画祭などで上映された。


「Esprit de corps」(2014年)はいくつもの映画祭で何度も上映されていた人気の作品。軍隊の新兵訓練の訓練長が新兵に対して規律、体力、性的なしごきを与え続ける。性的しごきを受け入れた新兵が合格するのか、受け入れなかった新兵が合格するのか。男たちによる肉体美の顕示とホモエロチックな絡みがおなかいっぱいになるまで続く。監督は「マキシモは花ざかり」の監督。