マレーシア映画『Hanyut』

ジョウゼフ・コンラッドジョゼフ・コンラッド)の小説『オルメイヤーの阿房宮』が原作。いろんな意味でがんばってる作品。
マレーシア地域が植民地化されるより前の時期にこの地に流れ着いて、現地人の妻、地元の有力者ラジャとアラブ人商人、イギリス人たちとの駆け引きに翻弄されながら、金鉱を掘り当てて愛娘と一緒にオランダで暮らしたいと夢見るオランダ人カスパー・オルメイヤーの話。歴史ドラマだけどメインは父娘の物語。白人として育てようとした父によって小さい頃に1人でシンガポールに送られた娘ニーナは、10年後に両親のもとに戻ってくると、父カスパーの意に反してマレー人青年と恋に落ちる。カスパーが「奴はマレー人じゃないか」というと、娘は「私の母もマレー人、そして私もマレー人」と言い切って父と決別する。マレーシアの劇場ではこの場面で客席から喝采が上がった。
植民地化前のマレーシア地域の西洋人と現地人の関係を描いた映画といえば、マレーシア映画ではないけれど『スリーピング・ディクショナリー』があった。西洋人の一方的な見方だし、何よりメインの話がいわゆる「男のロマン」だったりするのがなんとも難ありなんだけど、それを承知の上でそのことを含めて紹介するのならそれなりによくできた作品。なので、『Hanyut』はそれにかわって紹介する映画としてよいかなと期待していたし、内容は紹介に値する作品だと思う。でも、それだけに、物語の本筋とは直接関係ないけれど、地域性と時代性の点で混乱するのがやや難。
冒頭に地図で「1830年、マラヤ」と出るし(物語はその10年後)、オルメイヤーの妻がかなり強いパハン方言を話すので、1840年ごろの半島部マレーシアが舞台だろうと思って見始めるけれど、オランダ人がいて1840年頃にイギリス人が入ってくることやラジャがいることやスールーの海賊の話が出てくるので、原作通りボルネオ島としてあれば違和感はなかっただろうと思う。1830年頃に汽船がこのあたりまで来ていたのかなとかと思うと、時代設定も原作通り1870年代の方が違和感がなかったんじゃないかと思う。もしかしたらきちんと時代考証した上で作られているのかもしれないけれど、観ていて何度も「これはいつのどこの話なのか」「この時代にこの地域にこんなものがあったのか」と思ってしまって物語に集中しにくかった。