ガネーシュの「結婚」

『タレンタイム』について熱く語る人たちと話す機会があった。『タレンタイム』にはまだ掘り下げられるところがたくさんあり、特にインド系の文化や社会への理解が深まれば『タレンタイム』への理解ももっと深まると再確認。ヴィマラとマヘシュたちの関係など、よくわかっていないことも多い。
関連して、『タレンタイム』で最近気付いたことを1つ。マヘシュの叔父のガネーシュのこと。
ガネーシュは、亡くなったかつての恋人のことが忘れられず、自分が死んだ後にあの世で彼女と結ばれたいと願っていた。マヘシュが家に帰る途中、マヘシュの家に向かうパトカーがマヘシュのオートバイを追い抜いていく。この場面に挿入されるヒンドゥ寺院の喇叭と太鼓はヒンドゥ教の結婚の儀礼を想起させる。結婚の成立を示す太鼓のドーンという音で場面が切り替わり、ガネーシュが命を落としたことが知らされる。死と結婚を同時に迎えたガネーシュは、願い通りにかつての恋人と結ばれたのだろうか。
喇叭と太鼓の場面でヒンドゥ寺院にある神々の像も映され、演奏がクライマックスになると女性の像のアップになる。表情は神秘的で何を思っているかはっきりしないが、まるで女神がガネーシュの結婚を見守っているかのような雰囲気がある。
ところが、劇中でこれより後(物語内の時間ではこれより前)に、ガネーシュが生地屋に行き、亡くなったかつての婚約者のことを考えて心ここにあらずになっている場面で、生地屋にマネキン人形が何体か置かれていて、先の女神像はそのマネキン人形の1体だったことがわかる。
ヒンドゥ寺院の女神のように見せておいて実は生地屋のマネキン人形だったというのはいかにもヤスミン監督らしいが、深読みを逞しくするならば、これはガネーシュのかつての恋人で、マネキン人形はこの世での彼女の仮の姿なのかもしれない。そう思ってガネーシュの「結婚」の成立を告げる太鼓の直前に映る彼女の表情を見ると、ずっと待っていた愛する人とようやく結ばれるといういろいろな感情が混じりあっているようにも感じられる。


ヤスミン監督のお母様のイノムさんが今朝亡くなったとのお知らせをいただいた。オーキッドやメルーたちの母のモデルで、ヤスミン作品中の歌を作った人。この方のおかげで私たちはヤスミン作品に出会うことができた。Al Fatihah。