タイ特撮映画『プラロットとメーリー』

毎週楽しみにしていた『怪獣倶楽部』が終わってしまった。第3話のゼットンとの攻防も見ごたえがあったけど、最終回のアンヌ隊員からのメッセージもしっかり受け止めた。
今期は『ウルトラセブン』もあって特撮の濃度が高い日々を送っているが、特撮がらみでもう1件。直前になってしまったけれど、タイ映画『プラロットとメーリー』の上映会の準備をしていた。
東南アジアの民話と映画 シンポジウム・上映 女夜叉と空駆ける馬「12人姉妹」が映す東南アジアの風土・王・民 | イベント情報 | 国際交流基金アジアセンター


『プラロットとメーリー』はタイ版「12人姉妹」の物語だ。「12人姉妹」というのは東南アジア各国に伝わる民間伝承で、教科書に載ったりポップカルチャーに取り入れられたりと、繰り返し繰り返し語られながらも国や時代によって語られ方が少しずつ変えられている。その映画版の1つである『プラロットとメーリー』も、もともと語り継がれているストーリーを踏まえながらも、大胆に脚色したオリジナルの部分も取り入れている。
もともと語り継がれているストーリーは、「12人姉妹」で検索すればいろいろ出てくるだろうからここでは詳しく書かないけれど、とっても乱暴にまとめるならば、夜叉(人食い鬼)に母親(と11人の姉たち)が苦しめられている青年(ロットセン)が、囚われの身になっている母親を救うために夜叉の国に行くが、そこで夜叉の娘(メーリー)と恋に落ちてしまい、母を救うためには愛する妻と別れなければならないという物語だ。一方に母親への孝行があり、もう一方に夫に尽くす貞女への愛があり、その板挟みになる。
『プラロットとメーリー』で大胆に脚色されているオリジナル部分は、部下の夜叉に特徴的なキャラクター設定がされていることだ。夜叉は本来は悪役だけど、その1人(コーンラック)は心優しい夜叉で、夜叉の女王の命令に背かない範囲でロットセンや母たちにこっそり助け舟を出したりする。男だけれど天人の力で乳を授かり、囚われの身になっている母親に代わってロットセンを育てる。脇役だけど影の主役と言えるかも。
そして、それを助ける天人(テーワダー)。見た目はさえないおじさんだけど、実はいろんな力を持っていて、ぶつぶつ文句を言いながらもコーンラックとロットセンを助けてくれる。恋愛の話なんて聞きたくないとか言って拗ねるテーワダーが過去か前世にどんな経験をしてきたのか気になるけれど、テーワダーとコーンラックが男2人でロットセンを育てているのがまたいい。


という話はおいておいて、本題はここから。制作に関わったチャイヨー・プロダクションのソムポート監督は円谷プロで特撮を学んだ経験があり、『プラロットとメーリー』はウルトラシリーズとの関わりという点でも興味深い。
巨大な夜叉が森を歩く足音がウルトラシリーズの怪獣の歩く足音と同じだとか、呪文や魔法が発せられたときのビーム音がウルトラシリーズの光線技の音と同じだとか、夜叉が人間を食おうとして手で人間を捕まえる場面がウルトラシリーズを思い出させるとか、ほかにもたくさん共通点が見つけられるだろうが、私が特に興味深く思ったのは本編前の映像だ。
黒い画面の四方八方から閃光が集まって中央で光り、そこから球状のものが四方八方に散らばっていくと、赤紫色の歪んだ時空のような絵が出てきて、そこにチャイヨー・プロダクションのロゴが重なって、そこから本編が始まる。
昭和のウルトラシリーズに馴染んだ人ならすぐにわかるが、閃光が集まって光るのはウルトラマンタロウの誕生の場面だし、赤紫色の歪んだ時空はウルトラマンエースに出てくる異次元人ヤプールが棲む異次元空間だ。それぞれ『ウルトラマンタロウ』と『ウルトラマンエース』のオープニング主題歌の背景に出てくる。
これはチャイヨー・プロダクションのほかの作品にも共通しているらしい。単純に絵面がよかったから選んだという可能性もあるだろうが、ここではこのオープニングに込めた意味を想像してみたい。
まずはウルトラマンタロウの誕生の方から。『ウルトラマンタロウ』では、ウルトラマンタロウはシリーズ内で誕生して地球に来る。それまでのシリーズでは、ウルトラマンにしろウルトラセブンにしろ、すでに大人?で十分に活躍しているウルトラ戦士が地球に来たのに対して、『ウルトラマンタロウ』ではシリーズ内ではじめてウルトラ戦士の誕生が描かれた。
次のヤプール人は、『ウルトラマンエース』に出てくる悪役で、異次元空間に棲み、地球上の生物と宇宙怪獣を怪獣を合成した超獣を作って地球に送り込んでいる。ウルトラシリーズではじめてのシリーズを通した悪役で、毎週の戦いで超獣は倒されてもヤプールは生き残って次の週に別の超獣を送り込んでくる。ヤプール人は人間の負の心をマイナスエネルギーに変えて自分のエネルギー源にしているために完全に倒すことはできず、シリーズの途中で倒されても後に復活し、さらにその後のシリーズにもしばしば登場してウルトラ戦士を苦しめる。
チャイヨー作品の冒頭では、ウルトラマンタロウの誕生と、ヤプール人を象徴する異次元空間が続けて出てくる。興味深いのはその順番で、テレビシリーズとしては『ウルトラマンエース』が先でその次が『ウルトラマンタロウ』だが、チャイヨー作品の冒頭ではタロウの誕生場面が先で、エースのヤプール人が後に出てくる。
順序を逆にしているということにはそれなりの意味が込められているということだろう。ウルトラシリーズとの関わりで深読みするならば、人間の負の心をエネルギーとする闇の化身が棲む異次元空間を見せた後にヒーローの誕生を見せることでヒーローが無垢であることを示すのではなく、順番を逆にして、無垢のヒーローとして誕生した者も人間の負の心から逃れることはできないこと、それは誰もが業を背負っているためであることという因果応報を強く思わせる仕掛けになっており、『プラロットとメーリー』の根底にある因果応報の考え方とよく合致している。


追記.
シンポジウム「女夜叉と空駆ける馬 「12人姉妹」が映す東南アジアの風土・王・民」の記録