インドネシア映画『Banda』

インドネシア映画『Banda: The Dark Forgotten Trail』を観た。マルク(モルッカ)諸島のバンダ島についてのドキュメンタリー。
前半は、スペインとポルトガルの世界分割の話から香料の話へ。
後半はそこに住んでいた人たちの話。オランダ植民地期の1920年代以降、植民地政府は独立運動に関わった民族主義指導者たちをバンダに流刑にした。指導者たちがバンダで日々どのような暮らしをしていたかが紹介される。印象に残った話はハッタのものが多い。ハッタは時間にとても正確だったので夕方ハッタが仕事を終えて帰るところを見ると5時になったとみんな知ったとか、ボートの側面にインドネシアを象徴する赤と白の色を塗ってオランダ人に怒られたハッタが、海に浮かべたとき海の青い色とあわさって赤白青のオランダの国旗になるように塗ったと言い逃れた話だとか、半ば都市伝説っぽいものも含めていろいろ紹介される。
ときどきインタビューも出てくるけれど、ほぼ全編、レザ・ラハディアンのナレーション付きでバンダの美しい風景をたくさん見せてくれる。
結びはハイリル・アンワルの詩。マルク諸島ゆかりの詩で、いくつもの言語に訳されて欧米でもよく知られている詩だとか。かつて世界と直接つながっていたバンダを再び世界と直接結びつけたいという思いが感じられる。
インドネシア各地からさまざまな人々が集まってきたため東インドネシアで住民構成が真に多民族的になっているのはバンダだけだという。観光開発は歓迎するけれど第二のバリにはしたくないという期待で締めくくられる。
エンドロールには参考文献として学術書が何冊も挙げられていて、学会発表のプレゼンを全部映像でしたような雰囲気があっておもしろい。史実を踏まえた作りだが、現地で暮らす人たちの中には好ましくない描かれ方だと思うところもあるようで、アンボンの劇場で上映されたときには内容に抗議する人もいたらしい。ただしそれ以外の場所で特に抗議があったということはないようだ。