プラザ・スナヤン

今日は雨が降らなかったのでジャカルタのモールめぐりでプラザ・スナヤンへ。
3階のレストラン街に亞坤(ヤクン)カヤトーストと鼎泰豊(ティンタイフォン)が並んでいた。鼎泰豊は日本にもあるそうだけれど、私にとって鼎泰豊といえばシンガポールだ。2、3年前から、シンガポールに行くと必ず立ち寄る一番のお気に入りの店になっている。小籠包子などどれもうまいけれど、スープが絶品。
亞坤と鼎泰豊とどっちに入ろうか一瞬迷ったけれど、あのスープが飲みたくて鼎泰豊へ。ところが、この店にはあのスープはないという。残念!
小籠包子はあったので食べてみた。もしかして豚肉を使っていないのか、それともカニ肉がたっぷり入っていたのか、イメージしていた味とはちょっと違ったけれど、でもシンガポールの鼎泰豊と同じだと思わなければとてもうまい。


Kinokuniya書店の新刊書コーナーを眺めていると、長い長いタイトルの新書を見つけた。橋廣治さんの『インドネシア行き飛行機の中で読む、インドネシア語とそこに住む人々の話』(近代文芸社、2008年)。言いたいことはわかるけれど長すぎはしないか。『はじめてのインドネシア――ことばと人々』あたりじゃだめなんだろうか。それじゃあインパクトが弱いのかな。
まあしかし、「インドネシア行き飛行機の中で読む」と謳っているだけあって、軽く読めるし、インドネシアに行くにあたって一通りのことはちゃんとわかるしで、確かに「飛行機の中で読む」読者をターゲットに絞るのはいいアイデアかもしれない。飛行機には新聞や雑誌を置いておくサービスがあるけれど、インドネシア行きの飛行機にこの本を常備しておくというのはどうだろうか。
橋さんは守備範囲がとても広く、これまでに『東南アジアにおけるイスラム過激派事情』『東南アジアにおける新華人事情』『東南アジアにおける宗教事情』という本を書いている。ご縁があって3冊とも読んだ。3冊目はタイトルは宗教事情だけれど内容はアチェ津波をどう考えるかという話。表面上は淡々と書いているようで、要所要所でインドネシアに対する熱い思いが顔をのぞかせていて、橋さんの本はそこが楽しみ。


その隣に並んでいたのは、広瀬公巳『海神襲来――インド洋大津波・生存者たちの証言』(草思社、2007年)。アチェをメインに津波被災地で生存者たちに取材して津波の様子をまとめたもの。
アチェの人々が津波を始めて経験して、それを「アイ・ラウ・ナイ」(海が陸に上がってき)と表現したのはどういう気持ちだったのかを、被災者たちの話を聞くことで理解しようとする。それを通じて、津波被害が被災者にとってどれだけ悲惨なできごとだったかを訴えている。
1つ残念なのは、「アイ・ラウ・ナイ」をアチェ語と書いていることで、正しくはインドネシア語アチェの人たちが津波を見てアチェ語ではなくインドネシア語で表現したことの意味を考えるのもまた興味深い。


インド洋つながりの新刊書で、小西正捷ほか著『自然と文化そしてことば04 インド洋海域世界――人とモノの移動』(葫蘆舎、2008年)もある。
この本はたくさんの専門家がインド洋に関して分担して執筆したもの。いろいろな記事が読めるけれど、アチェ津波と紛争がらみでは西芳実「インド洋津波アチェに何をもたらすのか―「囲い込み」を解くためのさまざまな繋がり方」にとてもわかりやすくまとめられている。アチェの紛争と津波はとりあえずこれさえ読めば全体像がわかるし、これを読まないと話が始まらないと言っていいかもしれない。
ところでこの本のあとがきのような部分に「家島彦一さんの研究を引き継いで・・・」というようなことが書いてあったけれど、家島さんは研究から引退するということ? ちょっとびっくり。
アチェと言えば、アチェではインドネシアで掟破りの地方政党結成が認められて、アチェの分離独立を掲げて30年近く戦ってきた自由アチェ運動GAM)も政党を結成することにしたけれど、昨日のニュースによれば略称をGAMのままで正式名称をGerakan Aceh MerdekaからGerakan Aceh Mandiriに変えたらしい。Merdekaは「自由」「独立」なので分離独立というイメージがぬぐえないけれど、Mandiriなら「自立」なので分離独立とはならない。
アチェで戦ってきたGAMというブランド名はそのままにして、国内外から受け入れやすいようにMerdekaをMandiriに変えるとは、外の世界の動向をウォッチしてそれに柔軟に対応するアチェらしさがここでも発揮されているということだろうか。


プラザ・スナヤンのなかはあまりうろうろする時間がなかったので全体はわからないのだけれど、Kinokuniya書店という大きな本屋があるためか、インドネシア語の書店があまり充実していないようだったのがちょっと残念。向かいのスナヤン・シティには何軒かあるらしい。


プラザ・スナヤンとつながって映画館があったのでのぞいてみると、とてもきれいきれいな映画館だった。
おめかしした被りもの系の女性たちが多いなと思っていたら、今話題の『アヤアヤ・チンタ』(Ayat-Ayat Cinta)が上映されているらしい。エジプトのインドネシア人留学生が主人公のムスリム恋愛物語。これはぜひ劇場でインドネシア人観客の反応を見ながら見てみたい。