Forum Perdana

ペナンで見かけたタブロイド紙
Forum Perdana
第何号かは書かれていないけれど、創刊されて間もない様子。発行元はペナンではなくスランゴールのアンパン地区。
手に入れたのは2008年8月号。このタブロイド紙のキャッチフレーズは「Media Hal Ehwal Masyarakat Malaysia」で、マレーシア全体を指すのに「masyarakat Malaysia」(マレーシア社会)と言うのがおもしろくて買ってみたのだけれど、マレーシアにしてはかなり風変りなタブロイド紙だった。
使っている言葉はマレー語。マレーシアの「常識」で言えば、マレー語の雑誌はお堅いものが多く、ゴシップ系はもっぱら華語、そうでなければ英語。ところがForum Perdanaはマレー語なのに扇情的な記事ばかり。こんなものもあるんだなと感心した。
いちばん目を引く表紙に写真入りで紹介されているのは3つの記事。
「フリーセックス:マレー人の非合法児が増えている」
「夫の想像力をかきたてる法」
「バストのお手入れは今から」
ご覧の通り、対象はマレー語を読む御婦人層ということのようだ。


ついでなので記事の内容もちょっと紹介しておこう。
「フリーセックス・・・」は、マレーシアではなくシンガポールの話。シンガポール人口460万人の14.9%を占めるマレー人の間では結婚外の出産が増えているらしい。2004年には250人、2005年には240人、2006年には311人。(マレーシアでは2007年に生まれた婚外子は561人だったらしい。)2007年に出産した19歳以下の女性は820人で、そのうち458人がマレー人女性。華人は231人で、インド人は77人。シンガポールは都会なので性に乱れているとかいう話になるのかと思ったけれどそういうわけではなく、タイトルの「フリーセックス」は全然出てこない。記事の後半は合計特殊出生率を民族別に比較したりしている。
「夫の・・・」は、扇情的な色やデザインの下着をつけてみなさいとか、夫の行為1つ1つによいと言ってみなさいとか、夫の服を脱がしてみなさいとかいったアドバイス。話としてはありがちだけれど、わざわざこういう項目を挙げているところが、男女間では男が主導権を持つというマレー人のあり方を示しているようで興味深い。
「バスト・・・」は、女性たるもの髪だけでなくバストもお手入れが必要、今すぐ始めなさいというもの。女性の胸部のことを指すマレー語の単語はいくつか知っていたが、payudaraにははじめて出会った。エステや医療などの分野で使う単語らしいので「バスト」と訳すんだろう。


全部こういった柔らかい記事ばかりかというと、アンワール・イブラヒムの記事もある。その記事は当たり障りのない内容だけれど、次のページには「お母さん、liwatって何?」なんていう記事がある。関係なさそうに置かれているけれど、関係ないはずがない。
念のために付け加えれば、liwatについては、アンワールが10年前に同性愛行為の容疑で逮捕されたとき、「肛門性交」をマレー語でどういうのかが問題になって、それをliwatとすることが正式に発表された経緯がある。それまでマレーシアの人はほとんど誰もそんな言葉を知らなかったけれど、マスコミを通じてあっという間に全国に知られることになった。ところがこれがlewat(遅い)というごく一般的な単語ととても似ていたので、テレビで聞いた子どもたちが「liwatってどういう意味?」と尋ねて親や先生たちを困らせていた。それから10年経って、いま8歳前後の子どもたちがまた同じ質問をしているらしい。
そうかと思えば、そのliwatを取り締まる刑法377条Cを説明した記事もあり、そこでは「kesalahan memasukkan alat sulit ke lubang najis」とわざわざ書いたりしている。あまりにお下劣なので訳さないけれど、これを深読みすれば、ゴシップ記事でマレー人の御婦人層の関心をひきつけて、読んでいるうちにサブリミナル的にアンワールへの嫌悪感を植え付けようということなのかもしれない。