アチェ映画「Leumak Mabok」

なじみのCD屋に顔を出すとアチェ映画「Leumak Mabok」を勧められた。デジタル撮影された初のアチェ映画で、DVDで売られる初のアチェ映画との触れ込みで売られていた。街角に宣伝の横断幕も出ていたのでかなり力を入れて売り出している様子。
全編アチェ語なので細かいところまではわからなかったが、絵を見るのとアチェ語の意味を音から想像するのとでだいたい把握した内容は以下の通り。
主人公は不良青年のザカリア。ザカリアが町から田舎に帰って来たところで物語が始まる。いかにもワルっぽいが、髪形がスネ夫にそっくりなのでスネ夫と呼ぼう。スネ夫の子分が2人いて、1人はジャイアンにそっくり。ただしスネ夫よりも体が小さい。スネ夫が町から帰ってくるバスに乗りあわせて一緒に町から帰って来た若い女性がいる。町で学問をおさめて、学校の先生になるために田舎にやってきた。それを迎えるのが田舎の学校の先生。メガネをかけていていかにもひ弱なこの先生はのび太そっくり。となると女性教師はしずかちゃんだろう。スネ夫はしずかちゃんとお近づきになりたいが、のび太がしずかちゃんを自転車で送ろうとするのでいじめて自転車を川に落としてしまったりする。ということで、村に帰って来たスネ夫を頭とする不良青年たちがあれこれ悪さをして村人たちを困らせ、最後に3人とも逮捕される、というお話。
スネ夫たちが悪さをするたびに屋台の果物売りがとばっちりを受けるのだけれど、これは「象と象がケンカすると大変な目にあうのは踏みつけられる足もとの草だ」ということわざ通り。はじめは悪者に見えたスネ夫がしずかちゃんの気を引くためにしだいに改心していく話なのかなとも思ったけれど、悪者は初めから最後まで悪者で、最後に悪者がきっちり捕まる話だった。何の理由があるわけでもなくただただ悪さをしているのを見ると、「アチェ人は無法者が多い」というイメージを増幅しかねないとも思うが、アチェの人たちは楽しんで観ているのだろうか。もっとも、この映画は比較的ストーリーがわかりやすいもので、人気が出て続編まで作られた別のアチェ映画「Zainab」となると、登場人物たちが何の脈絡もなく盗んだり火をつけたり銃を打ったりという話になっている。


全編アチェ語と書いたが、学校でのび太が会話するシーンだけは、のび太がたどたどしいアチェ語で話し、ところどころにインドネシア語の単語を入れて話している。アチェ域外の出身者という設定なのか。もう1シーン、最後に3人が捕まって警察で取り調べを受けているシーンで少しインドネシア語が出てきたような気がする。アチェの人たちはインドネシア語が話せないことは全くないのだけれど、インドネシア語が出てくるとしたらせいぜい学校と警察で、しかもアチェ人以外が精いっぱい努力してアチェ語を話そうとしているというのが興味深い。外の世界からいろいろな人がやってくるのだったら、自分たちもよその人たちも話せるインドネシア語にすればいいとも思うが、そこをアチェ語にしているのがアチェらしさか。

もう1つおもしろいと思ったのはインド映画の影響。タイトルの文字が横に棒を引いてつなげているところからなんとなくインド映画っぽいなと思っていたけれど、途中で何の脈絡もなく登場人物が歌い出し、その場にいた何人かが踊り出したのでやっぱりインド映画だった。脚本を書いたのはNisfu Chandra Dirwataという人だそうで、名前からしてインド系のようだ。ほかのアチェ映画はそれほどたくさん観ているわけではないが、劇中で登場人物が突然歌い出すことはあっても何人も横に並んで同じ振り付けで踊り出すのは見たことがない。もしこの映画が当たれば、これからアチェの映画は歌って踊る映画ばかりになるのだろうか。