映画「Perempuan Berkalong Sorban」

主題歌をマレーシアのシティ・ヌルハリザが歌ったことでも話題になったインドネシアの映画。2009年1月に劇場で観逃していたが、今回DVDを手に入れた。
主人公はアンニサ。芯が強く賢い女性だけれど、ジャワの田舎のプサントレン(イスラム寄宿塾)の塾長の娘として生まれたばかりに「女が勉強なんかしてどうなる、結婚して子どもを産んでいい妻といい母になるのが女の務めだ」と父親や他の先生たちに怒られ続ける。授業で「夫の要求に妻はどう応えるべきか」という話ばかりされるので、「妻の要求には夫はどう応えるべきなのですか」と質問をすると、「妻の要求などというのは淫らな女だ」と怒られる。町や外国での進学の夢を断たれ、寄宿塾の発展のため、金持ちで実は素行の悪いボンボンと結婚させられてしまう。
その後のいろいろは略。しばらくして、アンニサは寄宿塾の女子生徒たちの助けになればと思い、自分がこっそり読んでいた本をコピーして渡し、女子生徒たちがまわし読みする。ところがこれが先生たちの知るところになり、こんな危険思想の本を読ませるとはなにごとだ、と先生たちが本を集めて焼いてしまう。まわし読みされていた本は何種類かあるが、表紙が何度も画面に映されたのがプラムディヤの『人間の大地』とエリ・ヴィーゼルの『夜』の2冊。劇中では1997年のスハルト体制末期で、プラムディヤの小説が発禁だったころ。イスラム寄宿塾による抑圧に抵抗するためにまわし読みした文書がインドネシアナショナリズムユダヤ人収容所の話というのがおもしろいが、おそらくその意図は、『人間の大地』はプラムディヤが監獄で書いた物語であることと、『夜』が収容所に関する物語であることから、ジャワの農村社会でイスラム寄宿塾が(女性にとって)監獄や収容所と同じような働きをしているという訴えなのだろう。
物語はその後さらにいろいろと展開し、アンニサはさまざまな障害を経験するが、最後の最後には寄宿塾に図書室を開設したいという思いが実現する。劇中では2002年ごろのこと。
この映画はプサントレンを抑圧的に描いているために上映禁止を求める要求も出ていたそうだが、一部では「プサントレンのカルティニ」と賞賛されているらしい。念のために書いておくとカルティニはインドネシアの女性解放運動のシンボル。
主人公の名前のアンニサはアラビア語の「女性」。アンニサは女性団体名などによく使われる。だから「アンニサの物語」は「女性の物語」ということになる。それに加えて、コーランの「女性章」が「アンニサの章」であることから、インドネシアムスリム女性たちはこの映画を観たときにコーランの「アンニサの章」を思い浮かべるというしかけになっている。
タイトルは「ターバンを巻いた女」。ターバンは男が頭に巻くもので、女なら顔を隠すベールになるはず。ということで、「ターバンを巻く女」を日本風に理解するなら「ネクタイを締めた女」という感じだろうか。