『タレンタイム』を読む

setiabudi2010-08-24

日本では今ごろヤスミン作品特集が上映されているはずで、できれば駆けつけて大きなスクリーンで日本語字幕でヤスミン作品を観たいところだけれど、タイミングが悪くマレーシアへ。断食月なので映画館でもマレー語映画がかかっていない。
マレーシア航空の機内上映で『ムアラフ』がセレクションの1つになっていた。「観る人の気分を害する可能性があります」の警告付き。
クアラルンプールのDVD屋では『細い目』『グブラ』『ムクシン』『ムアラフ』『タレンタイム』のDVDがたくさん並べられているけれど、英語字幕がついているのは『ムクシン』と『ムアラフ』だけ。『細い目』と『グブラ』はマレー語字幕のみ。『タレンタイム』は字幕なし。『グブラ』はDVDではなくVCDなら英語字幕付きのものがあるのでうまく探せば見つかる。『ラブン』もVCDを置いている店がある。
(と書いたけれど、最近マレーシアで並んでいる『細い目』と『グブラ』のDVDには英語と中国語の字幕があるものがあるようだ。DVDのパッケージには字幕ありと書いていないのでテストした方がいい。)

クアラルンプールで『Crayon the Movie』という映画の公告を見かけた。予告編では、『タレンタイム』のアディバ先生(あるいは『細い目』と『ラブン』のオーキッド家のお手伝いさんのヤムさん)と、『タレンタイム』のカーホウ少年が出ている。ただしヤスミン作品とのつながりは不明。広告用の垂れ幕がCarrefourに掛けられている。今年11月にマレーシアの劇場で公開されるそうだけれど、観るのが怖いような気が半分。
アディバ先生と言えば、演じたアディバ・ノール(アディバ・ヌールと書く方がよいように思う)の最新アルバムである「Teman」(友/仲間)が売られていた。『ムクシン』でアディバが歌っていたクロンチョン音楽の「Hujan」、そしてヤスミン監督に捧げる「Ratapan Sepi」が入っている。
(追記.本人に伺ったら「アディバ・ノール」とのこと。)


『細い目』に衝撃を受けて、マレーシア研究者としてあの作品にどう応答するかを考えはじめたのが去年の7月。中国圏とインド圏の映画や文芸の専門家とマレーシア研究者がいっしょにマレーシア映画を「読む」研究会を重ねて、『タレンタイム』を「読む」ブックレットを刊行できた。
http://malaysia.movie.coocan.jp/index.html
ブックレットでは、私はこの場で書いたことを整形してページを埋めた程度だけれど、他の人たちの記事はどれもとても読みごたえがある。「茉莉花」の歌に込められた深い意味。ガネーシュおじさんが結婚式の前夜のお清めの儀式で歌っていた歌の意味。それぞれの専門的な知識に裏打ちされているので読みがとても奥深い。中国文化とインド文化(そしてイスラム文化)とマレーシア事情がわからないとマレーシア映画(というよりヤスミン作品か)を楽しめない、なんて言うつもりはまったくなくて、むしろそんな背景の知識がなくても話がわかって笑ったり泣いたりできるのがマレーシア映画のいいところなんだけど、でも背景の知識があればずっとずっとおもしろくなる。
アテネ・フランセ文化センターのヤスミン作品特集の上映にあわせてブックレットを置かせていただいているので、ご関心のある方はぜひそちらでご購入を。『タレンタイム』を観た後でこのブックレットを読むと、きっともう1回『タレンタイム』を観たくなります。限定100部なのでお早めに。


最後に、誰にというわけでもないけれどヤスミン作品に関するお願いを1つ。ヤスミン監督の長編作品はテレビ用の『ラブン』を入れて6作なので、ヤスミン特集が6作品になるのはもっともだと思うけれど、できればホー・ユーハン監督の『ミン』も一緒に入れてもらえないかなと思う。
主人公のミン(ヤスミン)が本当の両親を探して小さな旅に出る物語で、ミンの両親役をヤスミン監督の実際のご両親が演じている。ヤスミン監督もミンの同僚としてちょっとだけ出演しているし、ホー・ユーハン監督も少しだけ出ている。
ホー・ユーハン監督が演じている内容を深読みするとヤスミン監督へのかなわぬ想いが伝わってきて泣けるんだけれど、私の深読みはともかく、『タレンタイム』に「見知らぬ他人に 育てられたかのよう/連れてってくれ あなたの元に/偏見にしばられた世は ぼくの永遠の敵」という「オ・レ・ピヤ」の歌を入れたヤスミン監督が実生活で置かれていた環境について考える上でとても興味深い作品なので、ぜひこれも日本語字幕付きで観たいと思う。(さらに言えば、もし将来ヤスミン作品のDVDボックスが発売されることがあれば、そのなかに『ミン』も入れてほしい。)関係者の方、もしこれを読んだらぜひ検討をお願いします。