災害関連の出版物

今日は夜の早い時間から雨がかなり降っていてインターネットの接続が途切れ途切れになる。明日洪水にならないとよいけれど。
このところ各地をまわって見つけた本のうち災害に関係するものを何冊か。


Otto Sukatno CR. Prahara Bumi Jawa: Sejarah Bencana dan Jatuh-Bangungnya Penguasa Jawa. (Jejak, 2007).
史実と伝承を交えながらジャワの自然災害と王国の興滅の結びつきを論じた本。
ジャワはこの2000年間に数度の大きな災害に襲われ、そのたびに古い王国が滅びて新しい王国が生まれてきた。ムラピ山の噴火は50〜60年ごとに起こり、ジャワの王国はたいてい50〜60年程度の寿命しか持たない。
ジャワの災害のうち被害規模が大きなものは、1006年のムラピ山の噴火、そして2006年のジャワ中部地震の2つ。いずれも千年期のはじまりに起こっていて、2006年の地震も前回同様に社会の大きな変革をもたらす可能性がある。インドネシア国家は成立して60年だが、この後も存続して100年を迎えることができるかはわからない。
災害の原因は、神の意思によるものとそこに住む人間の行いによるものの2つある。インドネシアがプレートの境界に位置しており、そのため地震が多いというのは神の意思によるもの。これに対し、災害の発生に備えたり、災害の発生に際して救援したりする上で政府は十分に情報や人員を割いていないというのは人為的なもの。この2つのためにインドネシアは災害の被害が大きい。
厳密に実証して歴史を語っているというわけではなく、自然災害を題材にして国家をよくすることで世直ししようと働きかけている前向きな本。ついでに書いておくと、この本にあるようにインドネシアでは自然現象と神の意思を重ねて理解する人も多いので、地震発生の原因を「自然現象か、神の意思か」と安易に尋ねたりするのはいかがなものかと思う。その問いへの答えを集めただけで何かが言えることにはならないだろう。尋ねるときには尋ね方も重要だ。
ちょっと気になる記述。社会局によれば、2006年5月のジャワ島中部地震から半年後の2006年11月、この地震で最も大きな被害を受けた地区の1つであるバントゥル県で自殺者が6倍に増えたらしい。ネット上でちょっと検索したら、確かに首吊り自殺について報じているものが何件かあった。ジャワ村落のコミュニティでも自殺を防げないほど地震の影響は大きかったということだろうか。


Andi A. Mallarangeng. Dari Kilometer 0,0. (Indonesian RDI, 2007.)
ジャワ地震の2日後から毎週月曜にJurnal Nasional紙に連載したコラム「ゼロキロメートル地点から」をまとめたもの。もともとは「国家の起点」(=ユドヨノ大統領)を批評するコラムのつもりだったけれど、ちょうどコラムの開始が地震と重なったために地震についての文章も含まれている。
我々インドネシア国民はこの地域から逃げ出すわけにはいかない、この地域が災害多発地域なのであれば災害と仲良くするしかない、「災害と仲良くしよう」という興味深い記事も。
文の構造がシンプルなので、中級の講読テキストによいかも。


子どもたちの被災の記憶に関する本2冊。
Mercy Corps Indonesia. Kiamat Sudah Lewat. (Kepustakaan Populer Gramedia, 2006.)
アチェ津波で生き残った8歳から15歳の子どもたち20人が綴った津波時の記憶。
Esok Masih Ada Pagi: Tsunami Aceh di Meureuhom Daya. (Millennium, 2007.)
2005年末、オランダ系NGOなどによってラムノーの小中高生を対象に行われた津波エッセイコンテストの作品集。


欧米の自然災害に関する本の翻訳2冊。
L.Don & Florence Leet. Gempa Bumi: Penjelasan Ilmiah & Sederhana. (Kreasi Wacana, 2006.)
オリジナルは1964年刊行の英語書籍。物理的な力の働きとしての地震を解説している。
Georgia Witkin. Agar Badai Cepat Berlalu: Mengatasi Trauma Akibat Bencana ---Besar maupun Kecil--- Mulai Hari Pertama hingga Setahun Setelah Bencana. (Kaifa, 2005.)
オリジナルは2002年刊行の英語書籍。被災してから被災後1年目までに被災者に起こることを時間に沿って紹介し、それぞれの局面でトラウマを解消するためのヒントを記したもの。


アチェ津波を被災地の特性から考えようとする本3冊。
M. Dzikron A.M. Tragedi Tsunami di Aceh: Bencana Alam atau Rekayasa?. (MT&P, 2006).
アチェが東西交易の結節点であったことなどからアチェの特徴を捉え、そのような地域が被災し、支援が入ったことの意味を検討したもの。
Nasihat & Pelajaran dari “Indonesia Menangis”: Refleksi atas Musibah Aceh dan Bencana Beruntun di Indonesia Ditinjau dari Kacamata Islam. Elba, 2005.)
なぜ敬虔なイスラム教徒が津波の被害を受けたのかをイスラム教の立場から理解しようと試みたもの。
Hepi Andi Bastoni et al. Serambi Mekkah: Dihempas Tsunami Diterjang Kristianisasi. (Qalammas, 2006.)
津波直後のアチェでは、「イスラム教の影響が強いアチェに西洋の支援団体が入り、キリスト教育を通じてアチェの被災者たちをキリスト教徒に改宗させようとした」と語られるできごとがあった。キリスト教への強制改宗というのはかなり誇張した話で実際はそういうことではなかったようだけれど、実際がどうであろうとも「支援に入った外国人によるキリスト教化の脅威」というイメージが一人歩きしていった側面がある。このできごとに対するムスリム側の主張。