マレーシアで見つけた本

台風で飛行機が飛ばないらしく、空港で足止めを食う。「Talentime」のサントラCDを聞きながら書きもの。今回マレーシアで見つけた本をメモ。


Map of the Invisible World (Tash Aw, Harper Collins, 2009)
我が友人の今期イチオシの小説。買ってすぐ日本に送ってしまったので内容は友人から聞いたままだが、インドネシアで生まれた華人の兄弟が孤児となり、それぞれマレーシアとインドネシアに引き取られて暮らすことになる話らしい。1960年代半ばのインドネシアによるコンフロンタシ(マレーシア対決政策)の時代が舞台で、そのため国境をはさんで兄弟が引き裂かれることになる。民族・国籍も性別も越境した人が少なからず登場するらしい。


Body 2 Body: A Malaysian Queer Anthology. (Jerome Kugan & Pang Khee Teik (eds.), Matahari Books, 2009)
マレーシアの性的多様性に関する23の章。冒頭に「ヤスミン・アフマドとトニー・カシムに捧げる」とある。トニー・カシムは2008年6月に亡くなったマレーシアの人権活動家。


Lethal Lesson and Other Stories. (Adeline Lee Zhia Ern, Silverfish Books, 2009)
イポー出身の18歳の華人少女による小説。


Evening is the Whole Day (Preeta Samarasan, Fourth Estate, 2008)
マレーシアのインド人家庭を描いた小説。物語は1980年頃の話だが、途中で独立前後や1969年のマレーシア(マラヤ連邦)の政治状況などが挿入される。


Gerila (Lukman Iskandar, PTS Publications, 2008)
タイ南部のパタニを舞台にした小説。マレーシア空軍のパイロットがタイ南部で不時着して独立派に助けられたのを契機に自ら独立派と行動を共にしてタイ政府・警察らとの戦いに身を投じる。著者はパタニ独立運動に参加して国内治安法(ISA)で逮捕された経験があるらしく、この小説は拘留中に書かれたものとのこと。


Haflan Solat Delisa (Tere-Liye,PTS Litera Utama, 2009)
しばらく前に紹介した津波直後のアチェを舞台にした小説。インドネシアでベストセラーになり、マレーシアではそのマレー語版が出版された。


Life: The Malaysian Style! (Peggy Tan Pek Tao, Pelanduk Publications, 2009)
アメリカ社会を念頭に置いて外国人にマレーシア社会のおもしろさを紹介したもの。類書は多いが、この本は「Inner Circle」「Other People」「Outer Circle」の3部構成になっていて、「Other People」のところで性別の境界を溶かすような人たちを多く紹介しているのが目を引く。


再苦也要去旅行(黄愛琳、World Express Mapping、2009)
「女生背包遊世界」シリーズの第2弾。写真とイラストで書いた旅行記。クアラルンプールを起点にタイを北上して中国に入り、シルクロードを通ってカザフスタンに抜け、イラン、トルコ、そしてエジプトに至る。著者はサバ出身の華人


Akhbar Saudara: Pencetus Kesedaran Masyarakat Melayu. (Siti Rodziyah Nyan, DBP, 2009)
1920年代に刊行されていたマレー語紙「Saudara」の内容紹介。最近、特定の新聞や雑誌を取り上げて内容を紹介する出版物が増えている。


Rahsia Ejaan Jawi. (Za'ba (Asmah Haji Omar), DBP, 2009)
マレー語はaeeiouの6つの母音の区別を持つ言語だが、それを原則として子音だけで文字表記するアラビア文字を使って表記しようとしたため、yをiやeの代用にしたりwをoやuの代用にしたりするなどの工夫が重ねられてきた。一方で宗教に関する語彙はアラビア語からの借用語が多く、それらはマレー語化してもアラビア語の綴りのままで受け入れるべきとの考えが残った。このように、マレー語として表記するにはなるべく母音を入れるべきとする流れと、宗教用語を中心とするアラビア語からの借用語アラビア語の原綴りに手を加えるべきでないとする意見の2つが緊張関係にありながらジャウィ表記をめぐる議論が続けられている。そんな状況で「マレー語文法の父」ザアバ先生がさまざまな文書を集めて、「どう綴るべきか」ではなく「どう綴られているか」を体系化した本を整理しなおしたのが本書。現実の綴られ方を記述したため、どうしても例外が多くなってしまう。そのために「難しいい」と批判されたザアバ先生の綴りは、実は与えられた条件の中で最適化された綴りの体系化になっていたりする。