ラジオから始まったタレンタイム

いよいよ明後日に公開が迫った映画「タレンタイム」に関連して、実際にシンガポールとマラヤ(マレーシア)で行われていたタレンタイムの話を少々。映画の「タレンタイム」の話はほとんど出てこない。 タレンタイムは、1949年2月にシンガポールの英語ラジオ…

マレーシア映画文化ブックレット

待望の「タレンタイム」の劇場公開が近づいてきた。いろいろなところでヤスミン作品への感想を読む機会も増えてきた。いろいろな人のいろいろな見方を知るのはとても楽しい。 1つだけ残念なのは、ヤスミン監督のことを「アフマド」と書いている人がいること…

マレーシア映画『インターチェンジ』2

少し前に書いた『インターチェンジ』に関して忘れないようにメモ。 クラブ・エデンの歌手シェラ(Shela)は実在の歌手で、芸名も同じ。本人役で出演。劇中で歌っていた歌の歌詞は「魂は体を離れて・・・」。 『中央ボルネオ紀行』。カール・ルンホルト著。字…

シンガポール映画『Lulu the Movie』

華語題は『露露的電影』。制作はシンガポール。シンガポールで人気のテレビ番組「The Noose」のスピンオフ作品。Luluというのは主人公の名前で、日本語字幕では字数を短くするため「ルル」になるんだろうけど、「ルールー」とのばして発音している様子がかわ…

マレーシア映画『Show Me Your Love』

華語題は『大手牽小手』。制作は香港だけど、物語のほとんどがマレーシアで展開するのでマレーシア映画と呼んでしまおう。そうすると、2010年以降で(つまり『タレンタイム』以降で)お勧めしたいマレーシア映画のベスト作品。中華の親子和解もので、テイス…

マレーシア映画『Desolasi』

主人公アイマンがクアラルンプールを駆けまわる。CGを駆使して、魚が空を飛び、クアラルンプールを恐竜が走りまわる。 CGで思いがけない絵を見せるという部分と、一般にわかりにくい症状を持った人を社会にどう受け入れるかという部分と、神との関係をどう考…

マレーシア映画『Hanyut』

ジョウゼフ・コンラッド(ジョゼフ・コンラッド)の小説『オルメイヤーの阿房宮』が原作。いろんな意味でがんばってる作品。 マレーシア地域が植民地化されるより前の時期にこの地に流れ着いて、現地人の妻、地元の有力者ラジャとアラブ人商人、イギリス人た…

マレーシア映画『インターチェンジ』

2016年後半のマレーシア映画(一部シンガポール映画も)には見ごたえがあるものが多かったので忘れないうちにいくつかメモ。日本でも映画祭などで公開されるかもしれなと思うとどこまで書いていいか迷ったりもするけれど、基本的に物語の核心部分も含めて書…

舞台『Nadirah』

フェスティバル/トーキョーのアジアシリーズ vol.3のマレーシア特集で、インスタントカフェ・シアターカンパニーによる舞台『NADIRAH』を観た。シャリファ・アマニが出演している舞台だということもあるけれど、何と言ってもヤスミンの短編『Funeral』のリー…

『鳩 Pigeon』とシャリファ・アマニ

東京国際映画祭で『アジア・オムニバス映画製作シリーズ アジア三面鏡2016:リフレクションズ』を観た。フィリピン、マレーシア、カンボジアと日本が舞台の3作品。東南アジアでは過去の災いによる個人の痛手や社会の亀裂が今日も残っているとともに、人と人…

フィリピン映画「REquieme!」ほか

2015年後半から2016年前半にかけて観た映画でよかったフィリピン映画をいくつか。(何年か前の作品も混じっているのはシネマラヤのように過去の作品を上映する映画祭で観たため。) 筆頭は「REquieme!」(2012年)。タイトルはrequiem(レクイエム)にフィリ…

フィリピン映画「痛ましき謎への子守唄」

この1年間に観た映画でよかったものをいくつかメモ。1つ目はフィリピン映画の「A Lullaby to the Sorrowful Mystery」。原題は「Hele sa hiwagang hapis」で、意味は「尽きせぬ苦悩への子守唄」、言葉を補って訳すと「答えの見つからない悲しみに満ちた物語…

フィリピンの映画祭

フィリピン滞在中には通信環境の問題で書けなかったことのメモ。まずはマニラ首都圏の映画祭について、日付順に。作品紹介よりも開催情報を中心に。以下の情報は日付を含めて2015年6月〜2016年5月の情報。 6月29日〜7月7日、World Premieres Film Festival …

映画「珈琲哲學」

マニラのワールドプレミア映画祭でインドネシア映画の「フィロソフィ・コピ」を観た。タイトルは「コーヒーの哲学」かな。とてもよかったのでメモしておきたいけれど、これだけ出来がよいときっと日本でも上映される機会があるだろうから、物語の核心部分は…

マレーシア映画ウィーク

4月11日から六本木シネマートでマレーシア映画ウィークが行われる。マレーシア地域研究者として、映画を通じてマレーシア社会の今を紹介するとしたらどのようになるかという立場から企画の一部に加わった。地域研究と映画業界のコラボで、異業種の噛み合わせ…

ヤスミン記念館の鍵

イポーの旧市街にヤスミン記念館ができた。ただし、独立した建物があってそれがヤスミンに関する記念館になっているというのではなく、イポーの町の一角が古い町並みのまま保存されていて、その中にアート関係のお店やイベントスペースが入っていて、ヤスミ…

「ノヴァ UFOを探して」

東京国際映画祭で「ノヴァ UFOを探して」を観た。いろいろな楽しみ方ができる映画。 高校時代の同級生が15年ぶりに再会してUFO探しの映画撮影の旅に出る物語。マレーシアであるかないかとは別に、青春物の映画としてとてもよくできた楽しい映画だった。でも…

『ケンとメリー 雨上がりの夜空に』

締め切りに追われる毎日が一瞬途切れたので、全編マレーシアで撮影したという『ケンとメリー 雨上がりの夜空に』を観てきた。 この映画を観る人たちの多くはフー・ビンかRCサクセションのファンのようだけれど、マレーシアのファンとして観てもとても楽しめ…

シネ・マレーシア

日本で初めてのマレーシア映画祭「シネ・マレーシア」が開催される。主催者ではないが、ご縁でいくつかの部分で関わることになった。別の映画祭と重なっているのだけが残念。シネ・マレーシアで上映される作品はどれも一度は観たことがあるけど、『イスタン…

「スールー王国軍」のサバ州侵入事件(4) 銃撃戦と軍事作戦の影響と意味

大規模すぎる?軍事作戦 3月5日、マレーシアの治安当局は大規模な軍事作戦を展開して「スールー王国軍」の殲滅に乗り出した。警察と陸海空3軍の合同で、2000人を動員して、空から、陸から、海から包囲して攻撃したという。 「スールー王国軍」(という呼び方…

「スールー王国軍」のサバ州侵入事件(3) サバ州の外国人問題とマレーシアの総選挙

マレーシア側からこの出来事を見たとき、不思議なのはどうしてこれほどまで大規模な軍事作戦を取らなければならなかったかということだ。その背景には、4月には行われると見られている次回総選挙で与党連合がかなり厳しい戦いを強いられそうで、勝利の鍵を握…

「スールー王国軍」のサバ州侵入事件(2) スールー王国とサバ領有権問題

スールー王国のスルタンの末裔とは何者で、サバ領有権の主張とはどのような内容なのかをまとめておこう。 長くなったのでポイントをいくつか挙げると、 ・スールーのスルタンはサバが自分たちの土地だと主張しているが、そもそもかつてスールーのスルタンが…

「スールー王国軍」のサバ州侵入事件(1) ラハダトゥの位置と事件の経緯

2013年3月1日、マレーシアのサバ州東海岸ラハダトゥで「スールー王国軍」を名乗るフィリピン人武装集団とマレーシアの治安部隊の間で銃撃戦となり、双方あわせて14人の死者が出る事件が発生した。その翌日には、別の村で地元警察と武装集団の銃撃戦が生じ、…

混成アジア映画

雑誌の編集作業からようやく解放された。「混成アジア映画」という切り口でアジアの映画と社会を語るという企画。映画の専門家(いろいろな地域やジャンルの映画をたくさん観てきた人たち)ではなく、地域の専門家(映画を含めて地域社会のことをずっと見て…

ブノハン

マレーシア映画『ブノハン』を観た。 2009年にヤスミン・アフマド監督が亡くなって、ポスト・ヤスミンのマレーシア映画をいくつか観たとき、それぞれおもしろいし楽しめるんだけれど、それでも私の中のマレーシア映画の歴代ベストで『タレンタイム』を抜く映…

「イスタンブールに来ちゃったの」

昨年は身のまわりのことがごたごたしていて観た映画や読んだ本のメモもほとんどできなかったけれど、だいぶ落ち着いてきたので少しずつ復活させることにしよう。というのも、去年のマレーシア映画は大当たりがいくつもあって、とても黙っていられないという…

『同じ星の下、それぞれの夜』

縁あって『同じ星の下、それぞれの夜』を観た。タイ、フィリピン、マレーシアをそれぞれ舞台にした『チェンライの娘』『ニュースラウンジ25時』『FUN FAIR』の3つの作品から成るが、ここではマレーシアを舞台にした『FUN FAIR』を中心に。 「FUN FAIR」(フ…

命に終わりあり 能には果てあるべからず

20年ほど前から家族づきあいをしてくださった方をお見送りした。本業とは別に、還暦を迎えてから能面を彫りはじめ、仲間を集めて狂言もはじめて、地元の人たちに伝統文化を伝えようと尽力した人だった。 最後の数日間に二人だけで話す時間があり、いま編集し…

ヤスミンのメッセージ

7月25日はヤスミン・アフマド監督の命日だった。それにあわせてヤスミンに関する本がマレーシアで出版され、ご好意で送っていただいた。 Yasmin How You Know? (Leo Burnett Malaysia, 2012.7, ISBN 978-967-11138-0-6) マレー語では「死ぬ」を意味する表現…

ヤスミン追悼上映会のナムロン特集

ヤスミン・アフマド監督追悼の上映会を今年も開くことになった。諸事情で平日の開催になってしまったため、参加できる人が限られてしまうことと、今年のテーマと密接に関係しているナムロンの都合があわずに来ていただけなかったのが残念。 http://www.cias.…